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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第2回

ウェブを「匿名の卑怯者」の楽園から脱却させるには

2008年02月05日 09時00分更新

文● 池田信夫(経済学者)

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仮想的コミュニティーで秩序は構築できるか


 他方、急成長している米国のSNS「Facebook」は、7000万人を超す会員のほとんどが実名だ。下に示した私のプロフィールのように、写真を出して出身大学や政治や宗教についての考え方まで明らかにしている人が多い。しかし互いに実名だと、誹謗中傷はほとんど起こらない。やった人がコミュニティーで相手にされなくなるからだ。議論のレベルも高く、有名な専門家が学生と議論していたりする。

Facebook

筆者のFacebookのプロフィール

 実は、これは初期のインターネットの姿に近い。本来、インターネットは全ユーザーがIPアドレスで同定され、ネットニュースなどでも実名で議論していた。しかし1990年頃から、ハンドルネームを使うAOLなどのBBS(掲示板)が大量にインターネットに合流し、ISPのファイヤウォール(情報防壁)で個人のIPアドレスも分からなくなったため、匿名が当たり前になってしまったのだ。

 とはいえ、韓国や中国のように政府が実名を義務付けるのはよくない。小倉秀夫弁護士は、ISPに住所/氏名と結びついた統一のIDを発行させることを法的な免責の条件にすることを提案しているが、こういう問題に政府が出てくるべきではない。本来はFacebookのように、実名で正々堂々と議論するのが当たり前で、匿名の卑怯者は相手にされないという慣習法によって自治が行なわれることが望ましい。

 最近いくつかのサイトで採用され始めた「OpenID」は、複数のウェブサービスにおいてログイン時のID入力を簡便化するための認証システムになる(関連記事)。これがウェブ全体で使う「固定ハンドルネーム」的になれば、口汚ない発言をするとIDの評判が落ちるので、自分の評判を守るようになるだろう。

 ただ、OpenIDに対応しているサイトはまだ少なく、私の使っているgooブログも非対応だ。とはいえ、今月からgooIDを必須にしたら、ノイズは格段に減った。先週Yahoo!JapanがOpenIDに対応したので、これから対応サイトは増えるかもしれない。

 ネットユーザーには、自由を「やりたい放題」と取り違えている人も多い。しかし、J.S.ミルの定義したように、自由とは「他人の幸福を阻害しないかぎりで自分の幸福を追求する権利」である。ハイエクは、自由を守るためにもっとも重要なのはルールの設計だと説いた。どんなルールも嫌だという人は、2ちゃんねるへ行けばいい。

 法的権力のないサイバースペースで秩序を作ることは容易ではないが、今はその実験段階だ。自己責任によって仮想的なコミュニティの秩序を構築できるかどうか、私たちの知性と倫理が問われている。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。



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