業務を変えるkintoneユーザー事例 第37回
地域貢献を進めるための課題解決に「そうや!kintoneあったやん」
神輝興産のkintone導入は「地元は地元を守る」という神戸愛が原動力
2018年07月30日 09時00分更新
kintone hive osakaで「土木業界のイノベーション」と題し、kintone活用について語ったのは神輝興産の吉田可弥氏。ガテン感あふれるハーネス装備で登壇した吉田氏は、橋梁検査の業務内容や課題、そしてkintone導入で本当にやりたかった地域貢献への想いを熱く語った。
アウトドア主婦が語る橋梁検査の重要性
「最近のマイブームはエクストリーム出社!3日前も六甲山に登ってから出社しました」という吉田氏は、休日にスノボやキャンプを楽しむアウトドア主婦。そんなワイルドな吉田氏だが、大学時代は情報科学を専攻していたバリバリのリケジョで、卒業後はカーナビの組み込みソフトウェア会社に就職。二度の育休・復職を経て、橋梁検査を手がける現在の神輝興産に転職したという。自己紹介を終えた吉田氏は、さっそく神輝興産と橋梁検査について説明する。
現在、橋梁は全国に70万以上あるが、そのほとんどは高度経済成長期に建てられたもので、建設後50年を超える橋梁はすでに18%におよぶという。「10年後には43%、20年後は67%の橋梁が、建設から50年以上経ってしまうことになる」と吉田氏は指摘する。100年以上の寿命を持つ京都鴨川の七条大橋のようなレアケースも存在するが、基本的に多くの橋梁は老朽化が著しい。老朽化した橋梁はコンクリートが剥離したり、中の鉄筋が露出したり、亀裂や抜け落ち、ひび割れなどが起こり、最終的には落橋に至るという。
こうした老朽化した橋梁の検査を手がけているのが神戸に本社を置く神輝興産。高齢化が進む業界内では珍しく平均年齢28歳と若い同社だが、ハシゴやロープ、移動式足場、高所作業用の特殊車両などを用いて高度な橋梁検査を手がけている。「社会のインフラを作り手としてではなく、守り手として残していく、社会貢献性の高い仕事であると思います」と吉田氏は語る。
業務の課題に「そうや!kintoneがあったやん」
会社名からもわかるとおり、神輝興産は地元神戸への愛着がきわめて高く、全社員で社会貢献活動に力を入れている。実は今回のkintone導入も、業務改善よりも先に、この地元貢献に注力したいという目的があった。「点検することが地域貢献なのか、もっと地域に恩返しする方法はないのか? 業務に追われてなかなか貢献できない、仕事のやり方に問題があるのではなどの声が社内から挙がっていました」と吉田氏は指摘する。
地元貢献の手前に立ちはだかった業務課題として具体的に挙がったのは、点検スタッフと事務スタッフが顔を合わさないことで、業務がきちんと引き継がれていないというもの。こうした課題の解決を考えた結果、「そうや!kintoneがあったやん」(吉田氏)ということで、kintoneが導入されたとのことだ。
kintoneでまず作ったのは、課題解決力の向上を狙った掲示板。「リーダーシップってなんだろう?といったお題を設けて、社員同士が自分たちの考え方を交わすために使っています」(吉田氏)。また、モノの管理にシステム化すべく、点検に必要な携行品のチェックアプリ、物品管理用のアプリ、消耗品の補充アプリなどもあわせて作成し、スタッフ間をつなぐようにした。さらに高度な作業を行なうスタッフのコンディションを管理すべく、直感的な「お天気マーク」を定期申告するアプリも作ったという。
また、点検報告書の作成方法がアナログという課題もあった。従来、同社では点検スタッフが手書きした点検結果を事務スタッフがPCに打ち直していたため、非効率で、人為的なミスが起こりやすかった。「でも、これって一度にやれたら、めっちゃ効率的やないの? 現場で簡単にPCに入力するツールがあったら、すぐできそうやんということで、『そうや!kintoneがあったやん』ということになりました」(吉田氏)。
具体的なシステムとしては、まず橋梁の規模や位置、設計情報などを盛り込んだ橋梁データベースをkintone上に構築。処理フローとしては、まずスマホアプリを用いて、写真をDropboxにアップロード。現地ではさらにタブレットPCで点検結果を入力し、橋梁データベースから該当の橋梁の情報とリンクさせた。
こうしたクラウド化により、現地スタッフが自ら点検結果を入力できるようになり、まずミスが減った。また、写真や点検結果をクラウドに上げることで、現地にいないスタッフでも内容のチェックや写真・データの整理が行えるようになったほか、作業時間が大幅に短縮されたという。さらに同社ではkintoneのカスタマイズビューを活用し、ヒトやモノの重複なく工程を作成できる「工程管理アプリ」やGPS連携により、点検地点へのナビゲーションを実現する「点検マップアプリ」などを作成し、作業の無駄や時間を大幅に省いたという。
「地元は地元で守る」を根付かせるために
kintone導入による業務改善は、橋梁をはじめとする地域のインフラを守ることに専念できるという効果をもたらした。しかし、本質はあくまで地元神戸への貢献。「地域のインフラを守っていくためには、地域を衰退させないこと。人と地域のつながりによって、衰退を防ぐことができるのではないか?」と吉田氏は語る。
kintone導入で捻出された時間を使い、神輝興産がやり始めたのは「地域の居場所作り」だ。道具置き場を改装して、地域の居場所を設営したり、社員食堂を一般開放したり、地元神戸大学との日本酒コラボーレーション、プロを招いての食育セミナーなどを開催し、「食を通じた地域交流により、地域内で顔の見える交流を強化する」ことを実現したいという。必要なときに柔軟に連携できるネットワークを強化し、お年寄りから子どもまでライフステージに応じた人材力を活用することで、「橋も、街も、人も、地域も、みんなで守る」というのが神輝興産の想いだ。
最後、吉田氏はあるべき姿として「地元は地元で守る」というスローガンを挙げる。地元に居場所を作りつつある神輝興産だが、インフラの保守・維持管理を学べる環境の整備や専門資格の設立にも携わりつつ、kintoneをはじめとしたITの導入も推進していく。「その土地の人ですら、地元をほったらかしにしていたら、どんなに歴史のある場所も、時の流れとともに消えてしまいます。まずは居場所を通じて、地元を好きになってもらう。その上で、自分たちの好きな場所は自分たちで守れるようになってほしい」(吉田氏)。
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