四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第124回
volcaシリーズ企画開発者インタビュー第1弾
volcaはKORGアナログシンセの集大成ではなくスタートだ
2013年06月22日 12時00分更新
アナログはトリガーを入れる度に波形が違う
―― じゃあbeatsから伺いましょう。
高橋 新しい開発要素も多かったので、前もっていろいろと実験をしておきましたから。いつもより試作は多かったですね。
―― 新しい開発要素というのは?
高橋 アナログのリズム音源ですね。うちのKR-55※とか、その辺の回路もありますし、結構いろいろ試しました。
―― どこら辺にフォーカスするための試作だったんでしょう?
高橋 音がいいかどうか。定番サウンドとして定着しているアナログの音にどれだけ近づけるか、あるいは、そこからどれだけ広げられるか。可変範囲が広い回路と狭い回路があるので、その辺を考慮した上で、生産性が良くてお金をかけなくても作れそうな回路、そういうものを考えながら。
―― まあでも音が主役なわけですよね。
高橋 まあ、音に尽きますね。だからアナログでやっているわけですから。
―― アナログ音源のリズムって何がいいんですか?
高橋 この「バツっ」っていうDC(直流成分)が乗っているようなキックの音とか。やっぱり風が来ますよ。それと、やっぱり音のなじみがいいんですよね。毎回トリガーするたびに波形が違うんです。というのは、中にレゾネーター(共振器)が入っていて、トリガーがその波形の山に来るか、谷に来るか、途中で来るかによって、鳴り方が全然違っちゃうんですよ。
―― レゾネーターの信号をゲートしているということですか?
高橋 というよりも、レゾネーターをトリガーパルスで突いてやるとサイン波が出るんです。その前の音の余韻が残っているところでトリガーを入れると、そのタイミングによって鳴り方が違う。だからひとつの音としてなじむなじまないじゃなくて、全体の流れとして気持ちよくなるんです、バラつきがあるから。
坂巻 ゆらぎがいいという感じ?
高橋 うん、一種のゆらぎです。
ハイハットもアナログ、スナッピーは半波整流で
―― 音作りの決め手になる要素は何ですか?
高橋 音の決め手は、どういうパルスを入れるか、その後にどういうフィルターを入れるか、レゾネーターそのもののピッチの癖、はじめに鳴った時のバネっぽさというか。そこを調整して音を作っていくんですね。
―― パルスによって音が違うというのは、どういう意味ですか? 単なるコントロール信号ではないんですか?
高橋 すごく細いパルスにすると、出音にもプツンというアタック音が出たり。だから、ちょっと波形を丸めてから入れるんですね。それをどれくらい丸めるか、パルス幅をいくつにするかで音が決まるんです。キックは頭のパルスを出したいから、カクッカクのパルスを入れています。
―― キックに「CLICK」というつまみがありますけど、これはパルスを調整しているんですか?
高橋 いえ、これはパルスではなく、最後に入れているフィルターをいじっているんです。もともとパツンという音のするキックを作っておいて、後で丸めているんですね。スネアやタムもキックと同じで、レゾネーターにパルスを突っ込んで鳴らすのが基本です。
―― アナログで作っているのは、キック、スネア、タム?
高橋 ハットもアナログです。矩形波を混ぜているんです。矩形波はロジックで出していますけど、それをアナログのバンドパスを通して、VCAを通して、最後にもう一回フィルターが入って、という感じです。
―― 単純なホワイトノイズじゃないんですね。
高橋 ホワイトもちょっと混ぜていますけど、基本的に矩形波6個ですね。それを使ってリングモジュレーションをかけて。
坂巻 ホワイトノイズだと金属感が出ないんですよね。
―― なるほど、それでリングモジュレーションと。
高橋 それにはいろんなヒントがあったんですけど、一番大きかったのはKR-55だったかも知れないですね。6個のオシレーターを使っているんですが、それぞれの周波数の比率がいい感じなんです。その周波数の比率を見つけるのは、なかなか難しいんですが。その比率を維持したまま周波数を平行移動すれば、同じニュアンスで違う音が作れるんです。
―― スネアのスナッピーもホワイトノイズじゃない?
高橋 このスナッピーの音は、ホワイトノイズを半波整流して。
―― 半波整流って何ですか?
高橋 波形のセンターより上だけ取るみたいな感じですね。マイナス側を切っちゃうんです。リズム音源では結構使いますね。
―― 押し出し側だけになるんですね。で、それをするとどうなるんですか?
高橋 「ガッ!」と来ます。
(一同爆笑)
高橋 スピーカーの前にいると「あっ!」 みたいな。
坂巻 波形の形状としても、滑らかさがなくなるからハイが出るんですよ。倍音が増えて。
※ 1979年に発売されたKORGのリズムマシーン。当時のリズムマシーンの多くがそうだったように、リズムパターンはプリセットでエディットできなかった。
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