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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第23回

人は必ずブレるもの 「UN-GO」脚本・會川昇氏が語る【前編】

2011年12月17日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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人間とはブレるもの

會川 僕はさっき、自分の脚本の作り方について「『自分が書かなきゃいけないもの』を決めたら、あとはストーリーを乗せるだけ」とお話ししたけど、その「書かなきゃいけないもの」を探していた時期だとも思うんです。


―― 「自分はどこにいくのか」、そのビジョンがまだなかったと。

會川 夢とか憧れだけはすごくあるんですよ。でもそれは、まだ形にならないものだったんですね。

 今回『因果論』で、新十郎が探偵になる前、戦時中に何をしていたかを描いたんです。彼は、戦争下の貧しい国に行って子供たちに巡回映画を見せることをしていた。新十郎は「人のために何かしたい」思いがいっぱいで、自分のスキルとしては何もないまま、勇気だけを信じて異国にひとりで行ってしまう。

 映画を見せて子供たちを喜ばせたい。だけど貧しい国の子供たちにとっては、(巡回映画は)実際は何の役にも立たないわけですよ。空虚な自己満足でしかない。「UN-GO」の物語的には、新十郎の“甘さ”を描いておきたかった。映画のフィルムは、彼の持つ空虚な憧れの象徴にもなっていて、フィルムが映写機から外れてカラ回りしたり、子供たちにからかわれたりしていたりする描写もあります。

 けれども、新十郎の誰かを喜ばせたいという純粋な思いは誰にでもあって、それは否定はしていないつもりです。新十郎のような一面は、誰でも心の中に持っている心理だと思います。戦下に行って巡回映画というのも、今だったらピースボートの若者みたいなものだとも思うし、僕自身の中にも純粋なものへの憧れはある。

 新十郎は、いろいろな思いを抱えた自分を否定もできないし肯定もできない。そんな彼が他者に向かって真実を暴いていこうとする。だからすごくブレる。ブレたり迷ったりすることがいけないんじゃなくて、その時自分はどうしていこうかと考えたりすることが大事なんじゃないの、というところだと思うんです。

(後編につづく)

■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)

 1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。


「UN-GO」DVD発売&「因果論」アンコール上映決定!!

 「UN-GO」DVD&Blu-ray Discは2012年1月27日より全4巻で発売。初回限定特典には、會川昇さん書き下ろしのドラマCDが収録される。シリーズ本編からは想像もつかないシュールなギャグ連発で、キャラクター、いや會川昇さんの新しい一面を体感できる。その他特典映像として、公式サイトで人気の「因果日記」、予告編、人物相関図、虎山レポート、インタビュー、イベント映像などが収録予定。

 また「UN-GO episode:0 因果論」は12月17日(土)より1週間、TOHOシネマズ六本木ほかにてアンコール上映が決定!! また12月23日(金)には、TOHOシネマズ六本木ヒルズでテレビシリーズ全11話+「因果論」のオールナイト上映会も開催される。水島精二氏×會川昇氏のトークショーも見られるぞ。詳しくは公式サイトで!


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