他人という新しい回路
―― 発見は、自分の中からではなくて、他人から始まるということですか。
難波 そう思います。物事を考えるときに、主体を「自分」に置かずに「相手」に置いてみることが大事なんじゃないかと思うんですね。ヴィクトリカについても同様で、情報だけ見て閉じこもっているときの彼女は、「自分中心」の状態ですよね。情報を得るのも自分のためだし、今居る場所での快適さを追求するのも自分のためだという。ところが他人と一緒に行動すると、自分中心ではうまくいかないことが出てくる。相手が、どうしてこんなことをするんだろう? という行動をとったりする。
逆に言うと、そういう不確定要素から起きる齟齬みたいなものが、成長には欠かせないんじゃないかなと。
もし相手が、自分の想像と違うリアクションをしていたら、何を思っているんだろうと考えたり、相手が悲しそうにしている様子を見たら、自分は何をしてあげられるだろうと考えたり、相手に対する想像力を働かせられると思うんです。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
―― ヴィクトリカだけではなく、現実の私達にも当てはまりそうですね。
難波 こうした部分は、アニメーションも現実世界も同じかなと思います。若い人で、情報を得るのも友達とのコミュニケーションも、ネットが中心というふうになっている人がいたら、外に出て友達と一緒に過ごしてみるのがいいと思うんですね。他人と一緒にいて何をするんだといえば、別にスポーツでも何でもいいし、公園とかで一緒にボーッとしているだけでもいい。風を感じるとか、雲を見るとか、そんなことでかまわない。
何か、一緒にいて感じた思いを「共有する」のがいいのかなと思います。どんな小さなことでも、相手と感じた思いを共有するというのが、お互いにとって関係性を深めていくことになるだろうし、人同士の絆になっていくのかなとは思うんですよね。
―― なぜ共有が、絆につながると思うのですか。
難波 思いの共有は、相手に対する想像力になっていくんだと思うんです。たとえば今、震災で苦しんでいる人たちがいるけれども、東京にいる自分は苦しいわけではない。でも、相手の置かれた状況に思いを馳せたり、思いを共有することで、苦しい気持ちが少しでも分かったり、何か自分にできることをしたいと思ったりする。そういうところが、人同士の関わり合いになっていくのかなと思います。
ひとりでいることの気楽さもあるけど、やっぱり人はひとりでは生きていけない。そういうところが「GOSICK」で描けていればいいなと思います。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。
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