社会との新しい“つながり”を探していく
―― 一弥は、「情報」を「経験」にするためのインターフェイス、“扉”的な存在でもあるわけですね。
難波 はい。実際に外の世界に触れて、空気を感じ、においを感じ、人と出会う。感情というのは、そんな実体験を経ることによって初めて立ち上がってくるものじゃないかなと。アニメーションでも、ヴィクトリカの体感みたいな描写を、できるだけ細かくするようにしたんです。
たとえば第1話冒頭の彼女はできる限り無表情で通して、人間的な感情は見せずに、頭で分かっていることだけで話をしているかのように見せる。そこから、彼女が外に出た瞬間、初めて大きく表情が変化する。町並みを見て、海に行って、喜びの顔を見せたり、蒸気機関車の窓から顔を出して、頬に風に当たって気持ちいいという表情を描く。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
―― アニメーションで実感を絵にするわけですね。一弥に関してはどんな描写がありますか?
難波 一弥が、図書館塔の最上階にいるヴィクトリカに会うために階段を上っていくシーンも、えっちらおっちら大変そうに見えるように描いているんですね。自分の体を酷使しながら毎回毎回ヴィクトリカに会いに来る。そういうシーンを、シリーズを通してずっと描いていました。そういうところにこだわったのも、経験が、その人の蓄積とか成長につながるというふうに思うからなんですけれども。
―― 現実の生活でも、実体験は大事だと思いますか?
難波 そう思います。情報を見たり聞いたりするのと、実際にやってみるのでは、受け取れるものの量がすごく違うんじゃないかなと。
体験ということで言えば、小さなことなんですけれども、仕事をしていて煮詰まったら、ふらふら歩いちゃう癖があって。会社でじっと机に座ったままだと、あんまり仕事がはかどらない人間なんですよ(笑)。ああ、どうしようかと頭の中が行き詰ったら、会社でもどこでも、ふらふらしたり、だーっと歩いたりして。とにかく気分転換をして、新たな接点を探すという感じなんです。
―― 新たな接点を探す?
難波 はい。脳内で、今あるつながりではない別の回路を探すみたいな。歩いているうちに、ああ、この手があったんだ、みたいなことがふっと思い浮かぶ。問題に対しての解答は、ひとつの道筋ではないんだと気づく、みたいな。
その時は、「歩く」という体感が、他の回路とつながるきっかけになっているのかもしれないです。新しいこととか発見って、自分以外とつながることで出てくるんじゃないかなと。自分にとって最も刺激があるつながりは、「外」とか「人」とのつながり、つまり「他人」とのつながりなんですね。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
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