まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第28回
ネット配信と著作権を巡る、慶應大・田中辰雄准教授の「白熱講義」
テレビアニメの無許諾配信はDVDの売上に貢献する!?
2015年12月31日 17時16分更新
公式ネット配信への影響はあるかもしれない
―― 論文を読んだアニメ!アニメ!の数土直志編集長は、「現在縮小が続いているDVDの売上よりも、むしろ公式のネット配信への影響のほうが懸念されるところではないか」とコメントされていました。これについては?(関連記事)
田中 「正直、影響はあるかもしれません。研究者としては、実証されたデータがありませんので、現時点では被害があるかもしれない、としか言えないのですが。
ただ、現状では売上の大半はDVDによるものですから、わたしの研究もそこをメインターゲットとしています」
国内コンテンツ産業の市場規模(流通メディア別割合の推移) | |||||
---|---|---|---|---|---|
(%) | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 |
パッケージ流通 | 50.7 | 49.9 | 48.6 | 49.2 | 47.3 |
インターネット流通 | 4.4 | 4.3 | 5.0 | 5.6 | 6.2 |
携帯電話流通 | 3.1 | 3.5 | 4.3 | 4.2 | 5.4 |
拠点サービス流通 | 12.8 | 13.0 | 12.8 | 12.5 | 12.6 |
放送 | 29.0 | 29.2 | 29.2 | 28.5 | 28.5 |
インターネット流通は年々増加傾向にあるものの、パッケージとはまだ比較にならないという段階だ(「デジタルコンテンツ白書」を元に編集部作成)
ニコニコ動画は削除が速過ぎて研究対象にならない
田中 「逆にアニメ関係者への取材を続けているまつもとさんにお聞きしたいのですが、公式配信は何を目的としているんでしょう? 売上よりも、DVDを買ってくれるファン層を広げようという目的があるのかなと個人的には思うのですが」
―― 公式配信といっても、バンダイチャンネルのようなアーカイブの有料配信と、ニコニコ動画でのオンエア後1週間は無料でその後有料配信という方式、そして『TIGER&BUNNY』のUstreamを使ったリアルタイム無料配信など、いろいろな取り組みがあります。目的はさまざまですね。
田中 これも印象ではありますが、ニコニコアニメチャンネルは、ファン層を増やしてDVDやBDを買ってもらおうという狙いがあるように感じます。わたしの研究室でもニコニコ動画を対象に研究を進めている学生がいます。
実は、私の論文でもニコニコ動画を追跡しようとしたのですが、無許諾でのアップロードは即座に削除されていたため、そもそもデータが取れなかったという事情があります」
―― ニコニコ動画の活用として、いわゆる『若年層のテレビ離れ』への対応、というのはありそうですね。そこまでいかなくとも、テレビを見ながらTwitter実況などで他のユーザーとのやり取りを楽しむファン層には受け入れられるスタイルだと思います。片岡義朗氏(東急エージェンシー、アサツーディ・ケイ、マーベラスエンターテイメントを経てドワンゴ執行役員)のドワンゴ入り後は、参加作品が増えています。
田中 「だとすると、やはりYouTubeでの無許諾配信もDVD販売に対する悪影響はないのでは。一方で、公式配信へのアクセス減少という意味での悪影響はあるかもしれませんね。今後の調査対象ともしたいと思いました」
―― YouTubeの場合、モニタリングツールなどは用意されているものの、権利者自らが監視・削除する必要があります。それに対してニコニコ動画は、公式配信含めて運営側が1ヵ所でコントロールしますよね。手間が少ないというのは利点かもしれません。
田中 「権利者がコントロールしやすいというのは確かにメリットもありますね。最適点を探る上で、無数の無許諾配信ファイルに対して制御をかけるのはコストとなってしまいますから。ただ、わたしはそれでもYouTube方式が優れている点もあると考えています。
それは、現状では違法配信は悪という思い込み(マインドセット)があるので、権利者側がファイル削除をしやすくすると、無許諾配信を恐れすぎて何が何でもファイルを削除してしまい、彼にとっても社会にとっても得られる利益を失う可能性があるからです。
社会的に考えると権利者側はマネタイズして収益を得るのが望ましく、YouTubeではそういう仕組みが入っています。まだ少額ではありますが。
ニコニコアニメチャンネルもアニメファンにとって優れた仕組みではあると思いますが、海外を含めた市場を見据えたときに、裾野を拡げる効果がどの程度あるのか未知数です。
ただ、ニコニコチャネルは無料と有料の組み合わせ方が仕組みとして面白く、YouTubeと違って会員制でユーザープロファイルが使えるなど有利な面もあるので、今後に期待したいです」
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