5億円のギャンブルはなぜ成功したのか
「鋼の錬金術師」プロデューサー、次の狙いは?【前編】
2011年02月05日 12時00分更新
(C)荒川弘/スクウェアエニックス・毎日放送・アニプレックス・ボンズ・電通 2003
「ハガレン」の愛称で世界的に知られる、漫画「鋼の錬金術師」。
アニメ化による相乗効果で現在、コミックはシリーズ累計5000万部、DVDは同じく168万本の売り上げ。疑いのない大ヒット作だ。そのハガレンシリーズのプロデューサーが田口浩司氏だ。彼は現在、スクウェア・エニックスの出版事業部長でもある。
「ハガレン」第1期のアニメ化を決めたのは2003年、コミック版の第5巻が刊行されたときのこと。まだ知名度が低かった作品を、自社だけで5億円かけてアニメ化する「大バクチ」を打った。そこからまんまとヒットに導いた彼の手腕、その狙いのウラには一体何があったのか。
そしていま、「ハガレン」の次に彼が狙っているものは何なのか。アニメと漫画のビジネス上の密接な関係、海外展開への強いこだわり、多様化する嗜好へのまなざし――そのすべてを聞いた。
「鋼の錬金術師」あらすじ
錬金術が支配する世界。そこで「人体錬成」は最大のタブーとされてきた。だが、ある幼い兄弟は亡き母親を想うあまり、ついにタブーを侵し、すべてを失ってしまう。機械鎧(オートメイル)を身にまとい、「鋼の錬金術師」の名を背負った兄、エドワード・エルリック。巨大な鎧に魂を定着された弟、アルフォンス・エルリック。二人は失ったものを取り戻すため、「賢者の石」を探す旅に出る。オフィシャルサイトはこちら
田口プロデューサーについて
スクウェア・エニックス・ホールディングス 専務執行役員/スクウェア・エニックス コーポレート・エグゼクティブ。1988年にエニックス(現:スクウェア・エニックス)入社。営業部・ソフトウェア事業部・マーチャンダイジング部の役員を歴任し、現在は出版事業部・音楽出版事業部・宣伝部を担当している。
―― 今回は田口さんに、「鋼の錬金術師」はどのような展開から大ヒットに繋がったのか。そしてスクウェア・エニックスの役員として、今後の展開をどのようにお考えになっているか、おうかがいします。
田口 今日はビジネス的な話だけでなくて、僕個人の思いも含めてお話したいなと思っています。というのも、僕の考えというのはわりとブレはしないんだけど、「こっち側の自分」と「こっち側の自分」(囲んだ両手を左右に振りながら)は両方別にいるんですよ。
―― 「こっち側の自分」とは?
田口 ビジネスサイドの自分と、クリエイティブサイドの自分。戦略のための考えと、個人の思いが別々にあったり、相反することがよくあるわけなんですよね。でも僕は、ビジネスには戦略も個人の思いも両方必要なんじゃないかと思っているんです。
―― なるほど。「ハガレン」はマンガと連動するような形で2度のアニメ化があり、大きなヒットに結びつきました。田口さんは他にも「ソウルイーター」「黒執事」など、自社作品のアニメのプロデューサーも務めていらっしゃいますが、出版社であるスクウェア・エニックスが、現在のようにアニメ化を推し進めた理由は何なのでしょう。
田口 マンガというのは、マンガを載せる雑誌があって、その後にコミックス化されるわけですが、今の時代、マンガ雑誌だけの売り上げでは利益が出ない。コミックスの部数をどこまで伸ばせるかが勝負どころです。うちの会社としては、アニメは作品を広める「広告塔」の役割という位置づけです。
アニメを制作し、テレビで放映するためには莫大な費用がかかります。うちの会社も出資をしますが、それをコミックスの売り上げが上回らないといけない。利益よりも広告費が大きかったら赤字になってしまいますから。
大事なのは「見極め」なんですね。テレビアニメと一口に言っても、どの時間帯に何局ネットでやるかによって出資額はまったく違う。だから、作品ごとに展開の規模を見極めるわけです。
(C)荒川弘/スクウェアエニックス・毎日放送・アニプレックス・ボンズ・電通 2003
―― その「見極め」はどのように行なってきたのですか。
田口 過去のデータです。こういうジャンルで、雑誌アンケート順位は何位で、コミックスが何万部売れていたか。その作品がアニメ化したとき、どの時間帯に何局ネットで放映したらどれだけ売り上げは伸びるか……過去のデータから分析して予算を作ります。今は、昔より積極的にデータを活用しています。
データの裏付けを見て、「展開の幅」を決める。そうすれば損は出ない。かなりコンサバ(保守的)に、確実に利益が取れる形でやってきました。でも、「ハガレン」に関してはかなりのバクチでした。ギャンブル的に大きな勝負をかけたのは、過去2回しかないです。「鋼」と「ソウルイーター」だけですね。
―― なぜそんなバクチを?
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