やっぱりいいものを作るしかない
―― アイドルに求められるのは実体ではなく虚像……ということで無理やり初音ミクに話を切り替えると、欲しい虚像を皆が作ってくれるという意味では、理想的なアイドルです。すでに成熟したアイドル市場のようになっていて、擬似メジャーのようにもなりつつあります。
古川 VOCALOIDの技術はとても面白いと思うし、特に初音ミクのアペンドなんかすごい進化していると思うんです。これは面白いじゃんと思っていたら、最初のほうが良かったって意見もあったりとかで。それがキャラクター的なものか、単に音(声)としての好みの差なのかは人によりますけど……。
村田 それも思い出補正ですよね。
―― この三年間ですでに思い出になっちゃったんですね。
キャプミラ 前にASCII.jpの記事で「ボーカロイドでしか作れない曲があるはず」というメカノ店長の発言が載って、「ボーカロイドでしかできない表現を目指すことは、逆に表現の幅を狭める」という意見が随分あったんですけど、あれは歌にしか着目していないんですよ。ボーカロイドをアイドルとして見た場合の表現としてしか捉えられなくなっている。それで「表現の幅を狭める」という意見が出てきてしまう。
古川 ボーカロイドってそもそもが「新しい楽器」だと思いますしね。
キャプミラ そうそう。ギターだってディストーションを手に入れたことで新しい表現が可能になったし、いろんな音楽ができた。ボーカロイドでしか作れない曲というと、機械にしか歌えないメロディというのが真っ先に思い浮かびますが、機械でしか成り立たない歌詞とか音色とか、いろんな方面から進化させられる可能性はあるのに。
―― おそらく新しいものは出てくるだろうけど、それが評価されるにしてもアイドル市場とは別なところかもしれないですね。
古川 思い出補正と言えば、こないだwowakaくんと、なんでおじいさんは演歌を聴くのかねという話になったんですが、彼らは一番感性的に多感な20歳前後に演歌を聴いているわけですよ。で、それが一生続く。その文脈からいくとwowakaさんは丁度いま一生聴く音楽を決める時期ってことになるんですが、好きな音楽を聞くと割と僕が大学の時に周りの連中が聞いてたインディーズシーンの音楽だったりするんですね。そうなると、さらに若い人達はこれからじいさんばあさんになったとき、果たして何を聴くんだろうって。
―― ボカロじゃないですか、やっぱり。
キャプミラ だからボーマスで中学生くらいの子が買ってくれると「ヨシ!」って思いますもんね。
古川 「お前のトラウマになってやるぞ!」と。
キャプミラ 一生聴いてくれるんだろうなー、と思いますもん。自分が中学校の頃って、(テープが)ボロボロになるまで聴いたじゃないですか。ブルーハーツがいまだに好き、みたいなもので。だから中学生には「ヨシ!」って思いますよ。
古川 そう考えると音楽ってそう先は暗くないんじゃないかと思いますよ。
キャプミラ 音楽に限らず、何でも10年やれば浮かばれたりするじゃないですか。自分を見たり聞いたりして育った人が、大人になったときに再評価してくれる。だから作り手側の基本に戻るんですけど、いいものを作るしかないんですよ。
古川 そうそう。続けたいですね。どんな形でも。
―― 村田さんはこれからどうしますか?
村田 みんな今はTwitterやFacebookばっかり見ていますけど、ネットの状況を包括して見る人間が必要になってくると思うんです。これから色んなサービスが出てくると思うし、レーベルの機能として必要なのは、そういう状況を見渡せる人間がいることだと思うんです。
―― つまり、あらためてレーベル的な動き方をしたいということですか?
村田 うーん。それは考えが纏まってからで……。リアルは古いって話もあるけど、ネットで全く話題になってないのに、リアルでCD3万枚売ったりするようなアーティストはいっぱいいるわけです。2ちゃんねるのスレッドでも30件くらいしか書き込みがないような人たちでも。
キャプミラ いますねえ。もうワケ分かんないですよね。
村田 そういうところも含めて仕掛けられる存在が必要なんじゃないかな。ということで、とりあえずそのために勉強します。
―― 分かりました。それでは皆さんのご活躍を祈ります!
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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