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2010年を振り返り、2011年を占う

TECH.ASCII.jpが見た2010年IT業界の乱【前編】

2010年12月27日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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クラウドに始まり、クラウドに終わった感のある2010年。リーマンショックからIT投資も緩やかに戻り、企業の情報収集意欲も盛んになりつつあるのがさまざまな場面で感じられた。ここでは2010年を読み解き、2011年の選択を確実にするためのいくつかのキーワードを「乱」という形で解説していく。

実用へと進んだ1年~クラウドの乱~

 1つ目はやはり「クラウドの乱」であろう。リーマンショック以降の「所有しないIT」を象徴的に表現したクラウドコンピューティングは、業界を覆った。2010年はクラウドを名乗る製品やサービスが次々現われ、激しくぶつかった1年となった。

 この乱にはさまざまな対立軸がある。Amazon EC2 vs 国内事業者という捉え方もあれば、クラウド製品を提供するするベンダーやサービスプロバイダ間の競争もある。また、セールスフォース・ドットコムのようなクラウドネイティブな事業者と、既存のソフトウェアビジネスに土台を置くマイクロソフトやオラクルのようなIT会社との戦いもある。まさに業界を巻き込んだ「乱」といえる。

 パブリッククラウド vs プライベートクラウドという乱にも注目したい。まずは用語の定義にも大きな差がある。プライベート/パブリックの定義の違いとして、自社の資産として持つのか、持たないのか、あるいは事業者のデータセンターに預けるのか、自社の設備に持つのかといった定義の違いがある。さらに両社を組み合わせた形態をハイブリッドクラウドといったりする。

 用語の定義やアーキテクチャ論はともかく、クラウドは現実的な選択肢となりつつある。たとえば、グループウェアを導入しようとする際、LAN内にサーバーを立てる以外に、月額課金のSaaSを利用するという選択肢もある。オンラインゲームの事業者は5台のサーバーからサービスをスタートさせて、会員やトラフィックが増えたら即座に10台追加するということが可能だ。LAN内にあった基幹システムをIPアドレスを変えずに、そのまま事業者のデータセンターに移した会社だってある。これらはいずれもクラウドの領域に入る新しいITの活用形態である。2011年は、こうしたクラウドの事例が数多く登場してくる。

データセンターの選択肢になるか?~仮想アプライアンスの乱~

 アプライアンスという観点で見ると、やはり仮想アプライアンスの登場は2010年の大きなトレンドと捉えられるだろう。仮想アプライアンスはVMwareやXen、Hyper-Vなどハイパーバイザー上で動作するソフトウェアイメージで、汎用サーバー上に仮想化環境を用意し、動作させることになる。国内でのいの一番は、昨年から製品を販売しているシトリックスシステムズの「NetScaler VPX」だと思うが、今年はおもにUTMやメール・Web系のセキュリティアプライアンス、WAN高速化装置、ロードバランサーなどが軒並み仮想アプライアンスとして提供されるようになった。

 以前、コラムで書いたとおり、こうした仮想アプライアンスに関して担当はわりと否定的である。従来、管理やサイジングの面倒なソフトウェアが、せっかくハードウェアやOSと一体化されたアプライアンスとなったのに、なぜまたソフトウェア型に戻るのか?というのが私個人としての主張である。ハードウェアがないわりには、仮想アプライアンスも劇的に安いとは言い難い状況。ハードウェア、OS、VMイメージが分離されるので、おのずとサポートも別れてしまうのもデメリットだ。

 しかし、電力消費やスペースは減らせるし、配置も容易なので、データセンターでは有力な選択肢になるとは思う。インタビューで意見を聞く限り、多くのベンダーは物理アプライアンスの置き換えになるとは思っていないらしく、あくまで選択肢の1つとして提供する製品だ。2011年は大規模に導入したデータセンターの事例が登場してくるかもしれない。

ペタバイト時代のデータはどこへ?~ストレージの乱~

 昨年のまとめ記事で予告したとおり、今年はストレージに大きな注目が集まった年だったといえよう。年々増え続けるデータ、膨らむ管理の手間、データ保護や漏えい対策、仮想化への対応などを考えれば、ストレージに注目が集まるのは必然といえる。業界動向的にも差別化が図りにくくなってきたサーバーではなく、付加価値的な機能が価格に反映できるストレージに力を入れるという動きが、一部のベンダーで見られた。もちろん、EMCやネットアップなどの専業ベンダーも、こうしたサーバーベンダーとの差別化を図るべく、仮想化対応の強化やインターフェイスのユニファイド化を推し進めた。こうした背景が伏線となり、HPとデルによる3PARの買収争いやEMCによるアイシロン買収へと発展していく。特にHPのシェア拡大の執念はすさまじいものがある。

 特に容量や性能をリニアに拡張できる「スケールアウト」というコンセプトは、クラウド時代を迎え、注目を集めた。スケールアウトという概念は、容量だけではなく、パフォーマンス向上まで含む。具体的には、ディスクを増やすと、パフォーマンスが落ちるという既存のNASやストレージの限界を解消するものだ。アイシロンのようなクラスタストレージは、従来はマルチメディアやコンテンツプロバイダなど限定された市場のみに有効であったが、昨今では仮想化やクラウドといった場面でも重要な役割を果たすようになってきた。

 一方、スケールアウトという拡張アプローチだけではなく、重複排除や圧縮などの緊縮アプローチも以前元気だ。重複排除や圧縮はバックアップがメインであったが、最近はプライマリストレージにも取り込まれる動きが出てきた。とはいえ、データ自体に手を入れない緊縮アプローチはそろそろ限界に近づきつつある。利用頻度に合わせて勝手にデータを削除するといった今までより踏み込んだデータ管理が必要になるだろう。

 今後もストレージには、こうした技術革新とともにコストパフォーマンスが求められてくる。ディスクの値段は年々すごい勢いで下がっているのに、個人向けの1TB NASと企業向けの1TB NASでは価格が2桁違うというのがストレージの世界である。この価格差を埋める努力がベンダーには課されてくるだろう。

モバイル端末の隆盛で息を吹き返す?~無線LANの乱~

 企業での無線LAN構築の需要が久しぶりに高まりそうだ。直接のきっかけはやはりスマートフォンやiPadなどのモバイル端末の流行である。これらの端末は基本的に無線LANのインターフェイスしか持っていないため、業務で利用するには無線LANの導入が必要になる。

 先日、ある大手無線LANベンダーの取材で聞いたのは、企業での無線LAN導入はまだ半分に満たないという調査報告だ。これまで無線LANにはセキュリティ面の不安と速度対コストといった課題があり、企業での導入は一部にとどまっていたわけだ。しかし、最大300Mbpsという高いスループットを実現するIEEE802.11nが正式に規格化され、認証や暗号化など多くの技術が高い信頼性を持つWPA2が標準化された段階で、導入の敷居は一気に低くなった。各社の無線LAN製品もいわゆる野良APの検出やローミングの高速化、ビデオ伝送の強化など高度な技術を取り込んでおり、従来のように「遅い、切れる、使いにくい」といった問題が少なくなっている。こうした中、無線LAN構築の機運が高まっている。

 2010年は数少ないながら、エンタープライズ無線LANのベンダーが発表会を行なったが、やはり彼らもこうした波に載りたいようだ。今後はスマートフォンに最適化された通信が重要になるほか、ギガビット化を実現するIEEE802.11acの標準化動向やWiMAXやいよいよ商用サービスを開始したLTEなど他のワイヤレス通信技術との共存も気になる。

 なおASCII.technologiesの2月号では、「2011年のITはこうなる」と題した特集1でクラウド、Windows、Linux、CPU、ストレージなど幅広い分野でディープな2011年技術動向予想を繰り広げている。あわせてお読みいただきたい。

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