このページの本文へ

ギガビット無線LAN時代へ向け、シスコはなにを実現する?

シスコの無線LAN製品が提供するリッチなモバイル体験

2010年12月14日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

プライベートでも仕事でも使えるモバイルデバイスが増えてきたことで、企業での無線LAN導入のニーズが再び高まっている。こうした中、エンタープライズ無線LANで大きなシェアを誇るシスコシステムズ(以下、シスコ)のワイヤレス製品担当者に、最新動向とシスコ製品で実現できるソリューションについて聞いた。

モバイルデバイスが無線LAN導入の契機!

米シスコ ワイヤレスネットワーキングビジネスユニット マーケティング バイスプレジデント チャラン・アラス氏(右)、同 APACマーケット開発 ジン・チェン氏(左)

 従来、無線LANはセキュリティが脆弱で、有線に比べてパフォーマンスが低いという弱点があったため、企業ではあくまでスポットでの利用がメインであった。しかし、昨今無線LAN導入や刷新の機運がにわかに高まっているという。直接のきっかけはやはりスマートフォンやiPadなどのモバイルデバイスの台頭だ。「今後3年間で15億ユニットのモバイルデバイスが出荷され、スマートフォンがPCの台数を抜くという調査報告もある」(アラス氏)ということで、多くの企業や組織でインフラをきちんと整備し直す必要が出ている。また、「300Mbpsを実現するIEEE802.11nが標準化されたことや、携帯電話に近いセキュリティ強度を持つWPA2が普及してきた」(同氏)ということで、セキュリティやパフォーマンスの課題が解消されてきたのも無線LAN導入を後押しする要因になっている。こうしたモバイルデバイス時代のネットワークインフラとして、幅広い無線LAN製品を提供しているのがシスコだ。

高い実績を誇るシスコの無線LAN

 アクセスポイント(以下、AP)とコントローラを組み合わせるエンタープライズ無線LANの分野で、シスコが圧倒的な存在感を誇っているのは疑いがない。かつてはアルバやメルーなどの専業ベンダーが伸した時代もあったが、有線LAN製品の分野で幅広いユーザーを持つシスコは確実にシェアを拡大してきた。「今ではワールドワイドで900万以上のAPが設置されており、約35%のシェアを持っている。たとえば、病院などでは89%がシスコ製品を採用している」(アラス氏)。その要因は、やはり既存の無線LANの弱点を解消する革新的な技術である。

 たとえば「CleanAir」の技術では、無線電波の干渉源を特定・検出し、自動的に電波を最適化する。これにより安定した通信とパフォーマンスを実現するほか、不正なAPやデバイスを確実に排除する。「CleanAirは利用する環境を考慮する。電子レンジの干渉や欲しくないトラフィックをきちんと除去する」(アラス氏)という。これに加え、PCを5GHz帯、モバイルデバイスを2.4GHz帯に分離するといった工夫を行なうと、モバイルデバイスを快適に使う環境が実現するという。

CleanAirテクノロジーを搭載したCisco Aironet 3500シリーズ

 さらにIEEE802.11b/gなどのレガシークライアントに安定した通信環境を提供する「ClientLink」という技術もある。これは無指向アンテナでありながら、指向性の高い通信を可能にする技術で、ビームフォーミングのように直接端末に電波を送ることで、感度をよくするもの。また、増えつつあるビデオでの配信を最適化する機能もある。「マルチキャストのビデオ配信を無線LAN上で効率的に行なうために、AP側でユニキャストに変換してデバイスに配信できる」(アラス氏)。これを使えば、たとえばCEOが社内でビデオで講演するといった用途に帯域を効率的に利用できる。

シスコが取り組み無線LAN経由でのビデオ最適化

 ユニークな事例もどんどん増えている。たとえば、サンフランシスコのAT&Tスタジアムでは、約350台のAPが一面に張り巡らされており、iPhoneなどから使えるようになっている。「4万人の観客が一斉にコンテンツをダウンロードすると、3Gではもたなくなる。そこで、無線LANを用いて携帯電話のトラフィックをオフロードしている」(ジェン氏)というメリットがある。また、特定の場所において無線LAN経由でコンテンツを提供するDigital Digoutという試みも進めているという。その他、病院のような環境でも用いられており、「WiFiフォンを構内電話として使ったり、心臓や血圧情報の収集や温度コントロール、さらには医療機器のトラッキングなどミッションクリティカルな分野でも用いられている」(ジェン氏)という。エンタープライズと通信事業者向けのソリューションを両方展開している点、さらに価格重視から信頼性重視まで幅広い製品ラインナップを持っている点などが、シスコの無線LAN製品の強みといえる。

次世代無線LANのためにシスコが進めていること

シスコがモビリティに関して投資する分野

 そして、シスコが次に注力する分野として挙げられたのが、まずビデオや音声、アプリケーションなどを最適化する「リッチメディア」だ。シスコの無線LAN認定であるCCX(Cisco Compatible Extensions)をスマートフォンに拡張したり、VPNクライアントである「AnyConnect」、ビデオや音声を利用するための「UC Mobile」などをスマートフォンにも展開する。

 「iPadやスマートフォンのようなモバイルデバイスはワイヤレスしかサポートしていない。でも、こうしたモバイルデバイスでもリッチなメディアを体験できる。しかもモバイルデバイスはオフィスで歩き回って使うので、ローミングやビデオ配信などで余計にその恩恵を受けられる」(アラス氏)とのこと。そして、これを実現するためには「デバイスのベンダーと緊密に連携することが非常に重要だと考えている。デバイスとインフラをきちんと統合していくことが、ユーザー体験を向上していくのに不可欠」(チェン氏)と述べる。

 そして2つ目が「Hotspot 2.0」ということで、公衆無線LANのアップグレードを狙う。「パスワードを入力しなくてもスムースに無線LANが使えるようにするための業界標準規格を私たちはサポートしている」(アラス氏)とのことで、携帯電話で普通に行なわれているローミングや認証を無線LANでも使えるようにする。

 3つ目の「コンテキストアウェア」という耳慣れないキーワードだが、これはロケーションサービスと言い換えられる。地理情報にひも付いた情報をユーザーに提供する機能だ。「たとえば、美術館に着くと自動的に案内や地図がポップアップするといったソリューションが考えられる」(アラス氏)ということで、屋外などでのGPSとうまく組み合わせ、ユーザーの体験をますます向上させる。

 今後は11nに比べて3倍のキャパシティを持つIEEE802.11acの標準化も進められており、こちらに関しても積極的にコミットしていくという。2010年代の本格ワイヤレス時代を控え、シスコのワイヤレス分野での技術革新はまだまだ続いていく。

■関連サイト

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード