新Airは「ジム」?
完成度・バランスの良さは折り紙付き
友人であり、IT/AVの世界では著名なライターでもある本田雅一氏は、Twitter上で新Airをこう称したことがある。「初代Airはガンダム、新Airはジム」と。
筆者もこの比較はよくわかる。初代のAirはとても高級感があり、無駄にお金がかかった製品だ。ボディーの加工もよくできているし、ディスプレーの発色もキーボードのタッチもいい。率直に言ってこの点では、新Air、特に11インチモデルは一歩も二歩も譲る。
例えばディスプレーのクオリティーだが、初代Airや現行のMacBook Proとは違い、色の浅さや視野角の狭さを感じる。キーボードも若干底打ち感の強いものに変わっている印象が強い。最上段・最下段のキーのぐらつきは、他のMacのキーボードよりも大きく、あまり気持ちのいいものではない。
とはいえ、8万円台という価格を考えれば十分な品質だとは思う。発色は気になるが、同価格帯のライバルに比べて極端に劣る印象はない。「価格なり」のものになっただけで、むしろ初代Airが破格だったのだ。まあ、値段も高かったのだが。
ガンダムとジムの比較は、「高級で特別なもの」が「低価格かつ納得できる品質のもの」になった、という意味であり、適切な比喩だと思う。だが、こと「実用性」に関しては、新Airは初代Airとは比べものにならないほど完成度を高めている。
初代AirはUSB端子がひとつしかなく、開閉式のドアで隠れる構造になっていた。だが新型では、USB端子が本体の左右にひとつずつ配置されるようになった。開閉式ドアは格好こそ良かったのだが、ちょっとコネクタの大きなUSB機器になると、ボディーの傾斜部にぶつかって差し込めなかった。
例えば3Gモデムも、コネクター直結の製品は干渉してしまうことが多く、別途アダプターをかませる必要があったくらいだ。新型ではもちろん、そんなことはない。ちなみに13インチモデルならば、SDメモリーカードスロットも(ようやく)搭載された。11インチモデルを買った唯一の後悔はそこである。
それよりもなによりも、大きく変わったのは発熱とバッテリー駆動時間である。思えば、初代Airは「熱」との戦いともいえる製品だった。アルミボディーの宿命でもあるが、ノート型Macはボディーの発熱が大きい。初代Airはそれに加え、放熱効率そのものにも問題を抱えていたようだ。熱くなってくると動作が遅くなる傾向が強かった。CPUが熱に負け、動作を維持するために1コアの動作を止めてしまうことが起きやすかったからである。
だが新Airはほとんど発熱しない。無理に高負荷をかけない限り「熱い」と感じることはないだろう。いまのところ、「コアが止まる」現象も見受けられない。真夏だとどうかはわからないが、この感じならば問題はなさそうだ。
バッテリー駆動時間も、初代Airでは問題とされていた。初代のカタログ上のバッテリー駆動時間は「5時間」とされていたが、筆者の感覚からいえば、無線LANを使いながら原稿を書いていると3時間半、というところだろうか。発熱によるロスが相当に大きかった印象がある。
しかし新Airはそうではない。YouTubeで動画を流し続けた場合で約3時間、Twitterアプリ「Echofon」で、1分に1度Twitterのタイムラインを更新し続けた場合では約4時間20分動作した(どちらもディスプレー輝度は50%に設定)。
実使用では、東京~名古屋間を新幹線で往復し(片道約1時間36分、往復で約3時間12分)、さらに名古屋で打ち合わせを1時間半行なった状態でも、バッテリーはまだ25%残っていた。もちろん、その間はずっと無線LANを利用しており、原稿書きやメール処理、メモ書きといった「軽い」負荷をかけ続けた状態であった。
新Airもカタログ値は同じ「5時間」。アップルによれば、これは「無線LAN下・ディスプレー輝度50%で、ポピュラーなウェブサイト25個を次々とアクセスした場合」を計測したものだという。そう考えると、体感的にもこの値は正しい、と言えそうだ。
常用持ち歩きマシンとなった新Airに感じる不満は?
現状筆者は、日常持ち歩くパソコンを新Airに変えている。バッテリー駆動時間はVAIO X時代より短くなったわけだが、動作が快適である方がありがたい。
だがこれが海外出張や、年に数度ある「屋外での実働時間が10時間近い」仕事の時となると、話は変わる。VAIO Xの「WiMAX通信内蔵」に「Xバッテリー」という魅力はいまだ色褪せていない。WiMAXが使えるラスベガスを訪れる、2011年1月のCES出張の際には、やはりVAIO Xを持っていくことになるだろう。
アップルの担当者にも聞いてみたが、彼らはAirに3GやWiMAXなどの通信手段を内蔵する計画はないようだ。「設計の難易度が上がる割にはユーザーメリットが薄い」と考えているのかもしれない。だが、もはや無線LANだけでは不足だ。モバイルルーターやUSBモデムを併用することの方が前時代的であろう。そういう意味では、Airにはまだ不満が残る。
また、これだけのバランスを実現できたのは、すでに古いプラットフォームである「ULV版Core 2 Duo」をあえて使っているから、という部分は間違いなくある。このCPUとGPUの組み合わせの「バランス」がAirの良さになっているのは否定できない。これがインテルのロードマップに乗り、Core iシリーズへ移行した場合、どうなるかはわからない。また、NVIDIAはGPU内蔵チップセット事業からの撤退を発表しており、その点でも今後が気になる。
新Airは、間違いなく「名機」と言わざるを得ない。これだけの美観とバッテリー駆動時間、速度をバランス良く備えていて、しかも8万円台で買える製品はほかにない。2011年度はNVIDIAもチップセットの「生産」を継続するため、すぐに製品が手に入らなくなるわけではない。だがこれらのパーツが手に入らなくなった「次の世代」で同じバランスを保てるかは気になる。むしろ今のアップルならば、「同じようなバランスで作れないなら次世代には移行しない」選択肢を採るかもしれない。
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筆者紹介─西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)、「クラウド・コンピューティング仕事術」「iPhone仕事術!」(朝日新聞出版)、「iPad vs.キンドル」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う? 世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(共著、徳間書店)。
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