ボーカロイドを取り巻く状況について
――最後にボーカロイド全般についてお伺いしたいのですが。まず音源を他社に任せて、ヤマハがパッケージ販売をしないのはなぜですか?
剣持 難しい質問ですね。ひとつだけ言えることは「もしヤマハでやっていたら、初音ミクは出なかった」ということです。クリプトンさん、インターネットさん、今回のAH-Softwareさんのように、企画力には素晴らしいものがある。声というのは、やはりいろなバリエーションがあるわけで、それをヤマハで全部やり切るのは無理ですよね。
――結果的に音声合成技術の「VOCALOID」ではなく「初音ミク」というキャラクター先行で知られるようになったわけですが、そこはいかがですか。
剣持 そこは全然構いません。呼び水としてキャラクターがあることは構わないと思っています。
――国内ではこれだけ盛り上がっているわけですが、海外での状況はどうでしょう?
剣持 Power-FXさんは「BIG AL」※4という新製品も用意されています。ただ、正直言って「Prima」※5とか「Sweet Ann」※6あたりの売り上げは出ていません。一部コアな人たちが使っているという、日本で言えば「Meiko」※7以前と言いますか。
※4 BIG AL : Power-FX社から発売予定の英語版VOCALOID2パッケージ。低音に強い男性声を特徴とする。同社のTwitter公式アカウントでは11月中の発売をアナウンスしている
※5 Prima : ZERO-G社開発の英語版VOCALOID2パッケージ。オペラのソプラノ歌手のような歌声が特徴。国内ではクリプトンフューチャーメディアが扱う
※6 Sweet Ann : PowerFX社開発の英語版VOCALOID2パッケージ。ダンスミュージック系にフォーカス。国内ではクリプトンフューチャーメディアが扱う
※7 Meiko : 2004年11月にクリプトンフューチャーメディアから発売されたVOCALOIDパッケージ。シンガーソングライター、拝郷メイコの音声をモデルにしている
――海外でウケない理由って何でしょうね?
剣持 うーん、何でしょう?
尾形 ひとつ考えられるのは、西洋では日常的に声を出して歌うということですね。日曜になれば教会に行って賛美歌を歌いますし。日本では今でこそカラオケのような文化もありますが、家庭には習慣として入り込んでいない。実は私がボーカロイドを出したかったのは個人的な理由もあって、実はオペラをやっていたんです。
――えっ、そうなんですか!
尾形 はい。声の仕事を。だから違う声のキャラクターが大勢揃ったし、合唱させるというのは面白いと思いますね。やはり違う声が混じることで違うハーモニーが生まれるからです。今は3つのパッケージですが、それが増えることでよりバリエーションを増すことが出来る。なので弊社としてもそこに参加したいと考えたんです。
――ただ全部揃えると結構なお値段になりますけどね。
尾形 ええ、まあ確かに(苦笑)。
以上でインタビューは終了。なおAH-Softwareでは、ボーカロイド3パッケージと同時に、読み上げソフト「VOICEROID」を2パッケージ発表している。テキストを入力するだけで、表情のある音声で読み上げてくれるというもの。読み上げソフトとして非常に良く出来ているし、声のキャラクターも明確だ。歌唱ソフトではないが、SofTalkのように(関連記事)、これを使って力技で歌わせるツワモノも登場するかも知れない。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。