日本で電子ブックの普及を阻害する
古い出版流通システム
日本勢では、ソニーがグーグルと提携してEPUBに準拠した端末を開発し、世界的にはKindleと並ぶぐらいの売れ行きを示している。EPUBはオープン規格なので、この優位がずっと続くとはかぎらないが、ソニーはこの種の端末を開発した経験もあり、資本力もある。本気でやれば、今のうちならソニーがアマゾンに対抗できる可能性もあるが、弱点は配信のインフラをもっていないことだ。これは音楽配信を行なったとき、社内の利害対立によってバラバラのネットワークと端末を出して共倒れになった失敗が尾を引いている。
かつてソニーが電子ブックで失敗した背景には、日本の出版業界に特有の事情もある。日本の出版社は再販制度(価格カルテル)をとっているため、本の仕入れ原価も一律に決められている。電子ブックは紙のないぶん安くできるのが強みだが、紙の本と同じ原価を一律に適用されると、低価格で供給できない。
また日本では権利者が著作権を強く主張し、グーグルの和解案の内容も理解しないで「文化を守れ」などという理由で和解から離脱したり、著作権訴訟を起こしたりする権利者が絶えない。こうした特殊事情があるため、Kindleも日本では出ていない。
しかし長期的に考えれば、あと10年ぐらいのうちには、現在の紙媒体が何らかの形で電子媒体に取って代わられるだろう。このまま権利者が目先の利益にこだわって排他的な態度をとっていると、かつて権利処理が障害になって日本で音楽配信システムも端末も育たず、アメリカ製のiTunesが世界市場を独占する結果になった愚を繰り返すおそれも強い。電子ブックも既得権を守ろうと新しい技術を拒否しているうちに業界全体が沈没する、という日本のいつものパターンになるのだろうか。
筆者紹介──池田信夫
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1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「なぜ世界は不況に陥ったのか 」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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