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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第66回

「黒船」グーグルに「攘夷」を叫ぶ人々

2009年05月13日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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ブック検索をめぐる意味不明の騒動

 Googleのブック検索をめぐる和解について、騒ぎが広がっている。私のところにも、いろいろな出版社から告知が来た。多くの出版社が和解に参加するが、データベース化は拒否するという方針を打ち出しているようだ。私の本についてはデータベース化されているわけでもないので放置していた。

NHK

現時点のGoogleブック検索では「ノルウェイの森」と検索しても、その関連書籍の一部分が表示されるだけで、実際の作品そのものを読めるわけではない

 ところがいろいろな人が騒ぎはじめ、谷川俊太郎氏などが記者会見して「Googleは傲慢だ」とか「文化独裁だ」などと非難し、約180人の著作権者が和解から離脱すると語った。しかし、谷川氏を初めとする日本ビジュアル著作権協会は、この和解の内容を理解しているのだろうか。

 まず基本的なことだが、今回の和解についての通知の主体は、Googleではなく第三者たる和解管理者である。この訴訟はアメリカではすでに終わっており、出版社側も和解に応じたのだから、非難するならアメリカの裁判所を非難すればいい(笑いものになるだけだが)。またその和解の効力が日本にもおよんだのは、ベルヌ条約によって自動的に発生した結果でGoogleの意志とは無関係だ。

 さらに滑稽なのは、これによって「『ノルウェイの森』が無断複製される可能性がある」と報じるNHKや、「日本文化が破壊される」などというコメントを流す新聞だ。彼らはGoogleブック検索を使ったことがあるのだろうか。これは基本的に著作権の切れた本を図書館でスキャンしてデータベース化するサービスで、著作権のある本はごく一部しかデータベース化されていない。

 試しに「ノルウェイの森」を検索してみると、27件しか出てこない。もちろん村上春樹氏の本はなく、出てくるのは(データベース化に同意した)一部の出版社の本だけだ。その項目をクリックすると、出てくるのは「ノルウェイの森」という言葉を含むページだけだ。

 現時点のGoogleブック検索は対象が限定され、表示される範囲が狭く、印刷もできないため使いにくいサービスで、これが文化を破壊するようなインパクトは(よくも悪くも)ありえない。仮に村上氏の本がデータベース化されたとしても、その1ページがGoogle上で見られたことで損害が発生するはずがない。むしろ多くの人に知られて、売れる効果のほうが期待できる。

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