競技2日目 果たして栄冠はどこに!?
翌9日は、朝に雨が少し降ったものの、くもり空の穏やかな天候でスタートした。6時過ぎにはバルーン上昇を開始し、7時すぎから競技開始となる。もちろん、150mのフルレンジだ。
初回となったTeam KSC-2は4輪を2輪駆動に変更する調整を行なってのトライだ。もともと3kg台で軽量だったクライマーは2.6kgと最軽量になった。これが功を奏したようで、3分27秒で150mのゴールに達した。
続いて同じ神奈川大学のTeam KSC-1。KSC-2の競技時間がトータルで20分程度だったため、「その時間を切れるならさらにギヤ変更を行ないたい」と意欲的だ。インストール込みで最速を目指すというクライマーは、1回目の上昇を3分16秒で終え、減速機交換の上で2回目に挑戦した。「天候が安定して、テザーのテンションが緩いのでいけるかもしれない」と1.5倍速を目指すトライだったが、スタートから2分半程度、テザーの途中で停止してしまった。「オーバースペック気味だった」との反省を残しつつも、「カメラなどの取り付けも行なってみたかった。みんなで仲良くデータを集めたい」と楽しげな感想を残した。
期待が集まったのは、センサー交換で臨んだミュンヘン工科大学チームだ。今回は楽々と昇降に成功し、安定した上昇と驚異のスピードを見せる。3回挑戦し、1回目1分11秒、2回目55秒、3回目52秒と昇降の度に記録を更新するという快挙をなしとげた。しかも、ビデオ撮影用にキヤノンのコンパクトデジカメをまるごと搭載した状態での昇降である。「スピードを出せるのは、ギヤボックスを使わず、ダイレクトパワー式のモーターパワーによるところが大きい」と設計に自信を見せるチーム。「昨日は登らなくてみんなショックを受けた。うまく上がってみんな安心」と笑顔を見せた。しかも「降りる際は安全のためゆっくりにしている」「バッテリーは競技のレギュレーションに合わせるため12Vバッテリーを使用。設計時の14.8Vバッテリーならもっとパワーが……」と実に余裕なのである。スピード部門での優勝は間違いなくこのチームだ、と思わせる確実な動作だった。
続いては、静岡大学のクライマー「うなぎのぼり」。なかなか素敵な名前だ。大会本部が用意した3軸加速度センサー「G-MENα」を搭載してのトライとなった。競技会はクライマー性能や垂直テザーという特殊なシステムがどのように働くか、という重要なデータ収集も兼ねており、そのための貢献を試みたのだ。クライマーはモーター、回路、センサー類用にそれぞれバッテリーを別に搭載する、前後にテザーのよじれを修正するガイドをつけるなどきめ細かい設計を見せたが、ローラーの軸になる塩ビ管が外れてしまうというトラブルを克服できず、残念ながら昇降できないという結果となった。
トライアルでは好成績を見せた日大羽田野研チーム「SAKURANA」が続く。タイヤの回転数を測定し、無線LANでデータを送信するという機構を組み込みスタート。1回目は順調に150mを3分3秒でクリアした。無線LANのデータは途中で受信できなくなり、限界があることも判明した。2回目は「G-MENα」とカメラを取り付けての挑戦だったが、スタート前にモータードライバに不具合が生じてしまう。競技時間中に部品を交換し再度トライするという、チームとしての底力も見せたが、スタートから約7分、タイムオーバーを考慮して中止となった。
日大青木研チームは、「G-MENα」とDVカムを取り付けて、重量アップしてのトライ。速さよりも各種センサーを確実に積むことを目的としたという。150mの上昇を4分38秒でこなし、前日より好成績を上げたが、途中で降りてこなくなってしまう。参加者一同、協力してテザーを引き下ろし取り外すことになるが、この作業がまた大変なのだ。ようやく取り外したクライマーは、回路の一部から煙を噴いていた。研究室ではエアコンも効いた環境で作業しているが、陽が差して暑かった屋外の環境では耐えられなかったようだ。「ヒートシンクだけじゃだめだなあ」との感想が漏れる。青木教授は、クライマーというシステムに対し「機構・回路・モーターが三位一体となって実現してこそであり、各部をそれぞれ良くしても、システムとしていいとは限らない」とクライマー開発の難しさを語っていたが、図らずもその難しさを体現していたように思えた。
最後に、帰ってきたチーム奥澤のmomonGaがモーターを交換してトライ。5分56秒で上昇の成績を上げるが、降りてこられなくなってしまう。繰り返される、過酷なテザー引き下ろし作業。地表に近くなったところでコントローラーの操作を受け付けるようになって取り外すことができた。「クライマー自身の様子をモニタリングする仕組みが必要かもしれない」というのがチームの感想だ。実際、クライマーの様子は操縦者および大会本部が双眼鏡で目視する必要があり、上昇するとよく見えないこともあるようだ。「次回に向けて……」参加チーム、運営本部ともに、心は早くも来年以降のチャレンジに向けて、着々と改善すべき点を数え上げていたようだ。この「熱さ」が競技会形式の良さではないだろうか。
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