プッシュでやってくることで情報環境が変わる
iPhoneでケータイメールを扱うようになって変わった点は、メールアプリの着信音よりも大きく、はっきりと「メール着信」を知らせてくれることだ。ホームスクリーンに誰から、どんなメールが届いているかを確認できる点もありがたい。
SMS/MMSを使い始めて、iPhoneのメールがプル型に寄っていたかを思い知らされる。他のアプリも同様だ。TwitterにしてもFlickrやYouTube、Safariなども含めて、すべて自分で情報を探して取りに行くプル型の情報端末だったのである。
もちろんそれでも十分にウェブをポケットに入れる体験をしてきた。しかし、ケータイではできていて、iPhoneではできていなかったことがあったのだ。それがすなわちプッシュ型の情報取得で、そこに1年間も離れていたことに気づいたのだ。
またiPhone OS 3.0にはケータイメール対応のほかにも、「Push Notification」というプッシュ型の情報手段が搭載された。これによりアプリ開発者は、Appleのサーバを通じて端末に対して新着情報などを通知して知らせることが可能になった。
とりあえず今回の原稿を執筆するに当たって、そのプッシュ通知機能を利用した、「30min.おでかけ」アプリと「iTwitter」という2つのアプリを試してみた。
まず30min.は、ブログやグルメサイトなどの情報を串刺しにしてエリア情報を調べられるアプリだ。初期はランチ検索からスタートし、現在はレストラン検索、レジャーや注目スポットの口コミ情報が表示できる。
この30min.では起動時に位置情報を取得して、周辺の口コミ情報をすぐに表示してくれる。今回加わった新機能では、過去の位置情報計測の情報を元にして、そのエリアの新着情報をプッシュして知らせてくれる。
たとえば赤坂で起動していた場合は、赤坂の新着情報がポップアップする。もしよく遊びに行く場所や職場の周辺で使っていれば、そのエリアの最新情報を通知してくれるのである。ちょうど、自分が好きな街で起きたニュースを街が知らせてくれるようなものだ。場所とのコミュニケーションをしているような、そんな新しい感覚が味わえる。
Twitter用クライアントのiTwitterでは、iTwitterのユーザー同士に限られているが、自分宛のダイレクトメールやリプライがあるとiPhoneの画面に通知してくれる。
Twitterは「5分間のメディア」と言われているほど、情報が次々に流れては古くなっていく。そのTwitterにおいてプッシュでリプライを通知してくれる機能は、本来非同期もしくは微同期のコミュニケーションメディアであるTwitterを限りなく同期メディアに作り替えてくれるほどのインパクトを感じさせてくれた。
もともとウェブ上のサービスであった30min.やTwitterを、PCではなくiPhoneで利用することは、ウェブの「場所からの開放」を実現した。しかし今回のプッシュ対応は、ウェブのその次の段階、「時間からの解放」と言えるかもしれない。
今回紹介したアプリは、ウェブのサービスが最適なタイミングで直接情報を送り届ける手段を持つことを示している。それがiPhoneのプッシュ対応なのである。
どんな情報をプッシュで受け取るか、いらない情報をいかに受け取らないか、あるいはいかにして新しい情報と出会うかなど、さまざまなメディア実験が今後待っている。
これらの問いにはまだ正解があるわけではない。ぜひ読者の皆さんも、自分の心地よいプッシュによる情報環境について、考え、試してみてほしい。コンシューマーレベルでの実験が新しい情報環境へのニーズを作り、また安心して使えるテクノロジーの姿を形作ると思うのだ。
筆者紹介──松村太郎
ジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性に付いて探求している。近著に「できるポケット+ iPhoto & iMovieで写真と動画を見る・遊ぶ・共有する本 iLife'08対応」(インプレスジャパン刊)。自身のブログはTAROSITE.NET。
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