実は入らなかったかも知れないピアノサウンド
── エレピの音をアピールするために、エレピ的なデザインにしたのかと思ったのですが、そうじゃなかったんですね。
金森 実はそれが逆なんですよ。先にデザイナーがこういうデザインを提案してきたんです。当初はアナログシンセの音しか入れないイメージだったんですけど、このデザインならピアノやエレピの音を入れたほうがいい。デザインがあがってきた後に、そういう議論をしました。
坂巻 アナログモデリングシンセにピアノの音って、正直言って悩んだんですけどね。
金森 使えるメモリーも限られていますからね。少なくともM3やOASYSのような、コルグの最高機種に入っているような大容量のピアノは入れられない。そういう制約の中だったのですが、できるだけいい音を選んだつもりです。
── それは入れて大正解でしたね。
坂巻 マーケティングで「こういう音が必要」というのはあるんです。でも、リサーチして分かるようなことだけじゃなく、音作りのプロが、ここからこういう音が鳴るべきだって思うものを入れた方がいいだろうと。
── 実際、これでエレピやクラビの音を弾くとハマリますもんね。
坂巻 外観を見ながら音を作ってますからね。(金森さんは)目の前に(デザイン案の)写真を貼ってましたよね?
── アイドルのピンナップみたいに?(笑)
金森 お客さんがこの楽器を弾くときに、こう鳴ってほしいと思うだろうという音のイメージに近づけたかったんですね。
坂巻 でも鍵盤も本物がないと音との一体感が出ない。だからいつも量産品に近い鍵盤を使ってもらっていたんですが、鍵盤の調整も同時に進めていたんで、途中で何回か鍵盤が変わったりしました。
── 鍵盤が変わると言うことは、ベロシティ(音の強弱)カーブも変わると言うことで、音も作り直しですよね。
坂巻 ベロシティもそうだし、体感的な質感が変わっちゃいますからね。生産が始まるギリギリまで調整してましたよね。
── その辺にハードウェアシンセの良さがあるのかも知れませんね。単にシンセの音がほしければフリーのソフトシンセもあるわけで。
坂巻 ソフトシンセで使うMIDIコントローラーやオーディオインターフェイスは、トータルで設計されたものではないわけです。鍵盤の体感から出音までをデザインできるのが一体型のメリットだし、その一体感が楽器としての楽しさにつながっていると思います。