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塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第5回

塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”

「マネ」の循環

2008年06月22日 15時00分更新

文● 塩澤一洋 イラスト●たかぎ*のぶこ

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簡単・便利なテンプレート その先にある本当の存在意義


01

 最近のアップルのソフトには、秀逸なテンプレートが数多く付属している。Pages、Keynote、iWebのテンプレートを使えば、簡単にカッコいい文書、スライド、ウェブサイトが出来上がる。GarageBandの音素材を組み合わせれば、それなりの楽曲を容易に作れてしまう。デザインの素養や音楽の知識がなくても、ある程度のレベルのものが誰にでも作れる。

 これは画期的なことだ。プロのデザイナーに依頼しなくても、美しい文書、美しいプレゼンスライド、美しいウェブサイトを自分で作れる。それも、デザインにはあまり気を使う必要がない。中身に集中して作り込めば十分に見栄えのするものが自然と出来上がる。作曲した経験がなくても、カッコいい曲を自分で作れるのだ。

 そして、これらのソフトを使うと制作のプロセスそのものを楽しめる点が何よりスバラシイ。きれいなスライドやウェブサイトを作ることの楽しさ、音楽を組み立てていくことの面白さを実感できる。

 「自分で」作れてその面白さを体感できる、というところがこれらのソフトの大きな魅力。とかくテンプレートというものの簡便さばかりがクローズアップされるし、ともすると「テンプレートを利用するためのソフト」のように扱われがちだ。けれども、これらのソフトにとってテンプレートの存在は入り口に過ぎない。

 魅力的なテンプレートや音素材があることによって、より多くの人がその先にある創造の楽しさを味わえる。そして作ることが面白くなってきたら、テンプレートをアレンジしたりレイアウトを変えるのも簡単。さらに、自分なりのデザインをゼロから作って、オリジナルな作品を仕上げる、という方向に発展していくことができる。そういう展望が明るく開けていることを感じさせるのが、これらのソフトの最大の魅力なのである。「自分にもできる」という実感が、創作への大きなチカラになるのだ。

 新しい物事に取り組むとき最も重要なのは、楽しさを知ることだ。同時に、クオリティーの高い素材を手本として自由にマネをし、そのよさを自分のものとして使うことが大きな満足につながる。テンプレートはその両方を容易に実現してくれる。「マネ」を歓迎する手本であるとともに、マネを脱皮して本当にオリジナルなものを作るためのジャンプ台になるのだ。

 しかし考えてみると、子どものころには当たり前だった「マネ」を、大人になってからはあまりやらなくなったのではないか。なんとなく「マネはいけないこと」と感じていたり、マネは子どもがすることで、大人はマネなんかしちゃいけない、と思ってはいないだろうか。そんなことはない。大人だってマネしていいのだ。人は一生、成長し続けるのだから。

 いろいろな手本を観察してマネを繰り返すと、テクニックが蓄積される。他人のテクニックが自分のものになっていくのだ。そして、蓄積が進むと自分らしさがにじみ出てきて、いつしか自分のスタイルが確立してくる。ジョブズのプレゼンが魅力的なのは、ジョブズらしさに満ちているからだ。自分のキャラクターをうまく使って、自分らしいプレゼンができるようになったらスバラシイ。「自分スタイル」を磨き上げていくのだ。


(次ページに続く)

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