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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第681回

スーパーコンピューターの系譜 HPEが独自のインターコネクト「Slingshot-11」を発表 

2022年08月22日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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 米国時間の8月21日からHot Chips 34がスタートする。今年もいろいろと目玉は多く、AMDがRyzen 6000とInstinct MI200と400G Adaptive SmartNIC SOC、インテルがPonte VecchioとMeteor Lake/Arrow Lake、それにXeon D 1700/2700、NVIDIAがHopper、Glaceに加えNVLink Network Switchの発表を行なう。

 他にも、先日紹介したLightmatterが、Passageの説明をするほか、個人的にはBiren TechnologyのBR100 GPGPUやJuniperのExpress 5、ArmのMorello Evaluation Platformなどが気になるところだし、Tesla MotorのDOJOも内容によっては記事で取り上げたいと考えている。

 目立たないところで言えば、MediaTekのDimensity 9000もなにげにArmのTotal Compute Solution 2021を代表するSoCの1つであり、これもArmの最近の動向とあわせて紹介してもいいかもしれない。

 ということでHot Chipsは業界から注目を集めているイベントであるのだが、その直前の8月17日~19日に、同じIEEEのHot Interconnectsというイベントがあるのは案外に知られていない。参加者数で言えばHot Chipsから一桁落ちるので仕方がないのだが、こちらはインターコネクト関連ならなんでもということで、今年も(筆者的には)非常におもしろいネタがいろいろ出てきている。

 CXL 3.0の話や、まだOMIが諦めてない(!)などをはじめ、今年のテーマは“Disaggregation Leading to Reaggregation”(解体と再構築)なのだが、それに沿ってイーサネットのトランシーバーの構成に関する再提案など、なかなか参加していて楽しい話題が多い(こういうのを喜ぶ人があまり多くないのはわかっている)。その中で目を引いたのでご紹介したいのが、HPEによるSlingshotの解説である。

買収に次ぐ買収から生まれた
独自のインターコネクト「Slingshot」

 HPE(旧Cray)のSlingshotは、HPCなどの大規模システムの中核をなす独自のインターコネクトである。もともとのCrayはCray-1から始まるベクトルプロセッサーをベースとしたシリーズで、連載275回から連載279回まで説明している。このシリーズを手掛けていたCRIは1996年にSGIに買収される。ただそのSGIも行き詰まり、Cray部門は2000年にTera Computerに売却される。

 Tera Computerは独自のMTA-1や後継のMTA-2を開発していたが、Cray部門の買収に合わせて社名をCray Inc.に変更している。この結果として新生Cray Inc.は、SGI時代のMPP(Massive Parallel Processor)とMTAシリーズのSMT+MPP、2種類のスケーラブルなアーキテクチャーに関する一定の知見を蓄積していたと言える。

 これが生かされたのが、2002年10月に契約を獲得したASCI RedStormである。このRedStormで、CrayはSeaStar Linkと呼ばれる独自の3次元メッシュのリンクを開発。最終的に1万880個のOpteronをこのSeaStar Linkで接続することで、高い実効性能を叩き出すに至った。

 このSeaStar Linkはその後Gemini/Ariesという後継のインターコネクトに進化するが、2012年にCrayはこうした独自インターコネクトのハードウェアとソフトウェアの資産一式、さらにはエンジニアも含めた部門全体をインテルに売却する

 では一体Crayはその後どうしたか? というと、2018年10月末に発表したShastaで、まったく新しいSlingshotインターコネクトを発表する。実はこのShastaを最初に採用したのが、NERSC(国立エネルギー研究科学計算センター)のNERSC-9ことPerlmutterである。

 最初のSlingshotであるSlingshot-10は、実はハードウェア的にはイーサネットそのものである。SlingshotのチップはMellanoxのConnectX-5で、2レーンで200Gbpsの帯域を持つ。これと組み合わせるスイッチの方はBroadcomのTomahawk 3というスイッチで、これで64ポート×200Gbpsの容量を持つ。

左下のSlingshot 10チップにMellanoxのロゴが入っているのがわかる。Tomahawk 3は、Rosettaという名前になっているが、中身は一緒である

 ただし普通のイーサネットとして使うのではなく、HPC向けの独自インターコネクト向けにドライバーおよびその上位のネットワークスタックの最適化を図ったものである。そもそもネットワークトポロジーそのものが独自である。DragonFly Topologyと呼ばれるもので、2008年にJohn Kim博士(現在はKAISTの教授を務めているが、当時の所属は米ノースウェスタン大学だった)らが考案した方式である。Dragonflyの構造を簡単に説明したのが下の画像である。

Dragonflyの構造

 ○がノード、□がスイッチというかルーターである。Kim博士の論文の表記に従えば、まず小さなグループ(8ノード/4ルーター)を作るが、ここではすべてのルーターが相互接続されているので、グループ内であれば2ホップでノード同士が通信できることになる。

 一方でグループ同士もお互いに相互接続されている。この結果として、グループをまたぐ通信は、最速で2ホップ、最低でも4ホップ、平均で言えば3ホップほどで接続できることになる。

 実をいうと、このDragonflyを最初に実装したのは、Ariesの世代である。Ariesの場合、このDragonflyに最適化した特殊なネットワークコントローラーを採用していた。これに対し、Slingshot-10では汎用のイーサネットコントローラーを使っている関係でAriesに比べると多少効率は落ちているが、その代わりにイーサネットとの互換性は高い。Perlmutterでは、このSlingshot-10が利用されたわけだ。

 なおNERSCのインターコネクトに、“Each GPU-accelerated compute node in cabinets with Slingshot 10 interconnect fabric is connected to 2 NICs, allowing each node to have 2 injection points into the network. This configuration is sometimes described as dual injection or dual rail. A GPU-accelerated compute node in cabinets with Slingshot 11 fabric is connected to 4 NICs.”とあり、Slingshot-10とSlingshot-11が混在していることがわかる。

 またAuroraのプロトタイプ的な位置付けになる、アルゴンヌ国立研究所のPolarisにもSlingshot-10が採用されているが、こちらもSlingshot-11にアップグレード予定とされている。

 ということでやっとHot Interconnectsの発表につながる。今回(Crayを買収した)HPEが発表したのは、Slingshot-11である。つまりSlingshot-10の後継となる製品だ。

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