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市内各地区のコミュニティをつなぐプラットフォームを整備

kintone活用でコミュニティの課題解決力を上げる島根県益田市

2017年04月21日 07時00分更新

文● 重森大

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 島根県の西の端に位置する益田市。昭和の大合併、平成の大合併を経て20の市町村が集まり、県内最大の面積を持つ市へと成長した。広い行政区域に、旧自治体単位で20の地区があり、それぞれが海、山、市街と違う環境にある。当然、生活に根ざす課題も地区ごとに違い、市が一律にまとめて牽引していくのは難しい。そこで益田市が取ったのが、中間支援組織の手助けを得ながら、各地区の課題を各地区のコミュニティで解決していくという手法だった。

地域おこしを頑張る各地域のキーマンをITで支援したい

 益田市役所を訪ねた筆者を迎えてくれたのは、同市政策企画局 人口拡大課の岡崎健次さん。旧自治体単位で長年営まれて来たコミュニティを無理矢理ひとつにまとめることはせず、市内20地区でそれぞれ地域おこしに取り組んできたと教えてくれた。

 「続けるにつれて、各地区のキーマンが疲弊してくるんですよね。市として、ITを使って彼らの活動をサポートしたいと考えていたときに知ったのが、教育委員会と大学が共同研究で使っていたkintoneでした」(岡崎さん)。

益田市政策企画局 人口拡大課の岡崎健次さん

 ちょっと手本を見せてもらっただけで、直感的に使える。これなら各地域で自主的に活用してもらえるのではないかと感じたという。岡崎さんは「道具が活きるには、学びと活用のサイクルが回っていく必要がある」と言う。ユーザーがアプリ開発者になるkintoneの仕組みは、岡崎さんのこの考えにもしっくりきた。

 地域おこしを支援する、一般社団法人小さな拠点ネットワーク研究所の檜谷邦茂さんもkintoneの導入を推した。「実際に地域の人が使っていくうちに、自発的にアプリを作って、周囲の人に使ってもらう。そんなことが自然にできないと意味がないと思いました。情報共有ツールやクラウドプラットフォームはいろいろあるんですが、直感的にアプリを作ることができて、運用まで現場に引き継げそうなものは他には見つかりませんでした」(檜谷さん)。

 益田市には日本海に面した沿岸部から中山間地域まで多様な地形があり、それぞれに根付いたコミュニティがある。地域ごとに個別の課題を抱えており、一律の対応は難しい。もちろん市全体としての共通課題もあるが、それとて地域ごとにプライオリティが異なっている。kintoneなら自分の目の前の問題を解決する手段として、地域の人たち自身に使ってもらえると期待された。

課題の解決ノウハウがアプリの形kintoneに蓄積される

 kintoneの活用は市役所、各地区で並行して進められた。市役所内では、バス利用者数を調べて交通対策を行なったり、写真入りのデータベースを作って空き家対策を行なったりしている。市内各地域では、二条地区で鳥獣害対策に活用されているほか、真砂地区の自治組織では事務局運営の効率化を実現している。

 それぞれに活用を進めるだけではなく、利用実態を共有する場を持っているのも注目すべき点だ。2月に、益田市などの主催で「益田市の中山間地域におけるICTを活用した持続可能な地域運営のモデル構築の実証実験 成果報告会」が開催されている。そこでは市職員と各地域のキーマンが集まり、それぞれの取り組みと成果について発表し、ディスカッションが行なわれた。まさに、活用と学びのサイクルが回り始めているのだ。

 「益田市は県内最大の面積を持つものの、市職員の数はわずか400人ほど。持続可能な地域運営のためには、地域の人たちが当事者になって、解決策を生み出していく文化を作らなければなりません。自分たちの課題に自分たちで取り組んでいくことで、自然と協働体制も築かれます」(岡崎さん)。

 地区を越えた協働から、広域連携が生まれる。そのとき情報共有プラットフォームとして活躍するのがkintoneであり、課題解決の手法はアプリという形でテンプレート化されていく。「類似課題の解決ノウハウが、アプリという形kintoneに蓄積されていきます。後から続く地域は、そのアプリを自分たちの地域に合わせてカスタマイズして使えます」(檜谷さん)。

一般社団法人小さな拠点ネットワーク研究所の檜谷邦茂さん

 その効果は市内各地域のキーマンに認められ、市役所を含めて横に繋がる文化が醸成されつつあるという。ITを活用することで、若い人が地域活動に入っていくきっかけにもなってほしいと岡崎さんは期待する。

 「真砂地区では中学生にkintoneを使ってもらうワークショップも計画しています。何かアイデアが生まれたときにすぐ“いいね、それやろう!”と動けるようなリアルな関係性を作らなければなりません。kintoneはアイデアを気軽に形にするツールでもあり、市民をつなぐプラットフォームでもあると考えています」(岡崎さん)。

 クラウドプラットフォームで結ばれた市民が、それぞれの地域課題の解決に取り組み、そのノウハウを共有する。少ない人口が広いエリアに広がる市町村は、国内中山間部に多く存在する。そうした自治体の運営にひとつの解決策をもたらすかもしれない挑戦を、島根県益田市は今日も進めている。

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