作業員のスキルに応じた人員配置で効率や品質を高める
品質確保には作業員の能力も重要な要素となるが、TIHでは全作業員の能力を定量的に把握するとともに、作業工程すべてに難易度指標を設定し、作業員の能力と作業難易度に合わせた人員配置を行なっている。また、中国人の気質に合わせ、全作業員の能力や作業内容などの成績を工場内に張り出すとともに、能力や作業内容に応じて給料が変動するシステムとすることで、モチベーションを高めるようにしているという。
全作業員の成績を工場内に張り出すというのは、日本ではあまり考えられないが、これは現地の作業員の気質を意識したもので、逆に中国では作業員のモチベーションを高める、理にかなった方法だという。
また、特に能力が高く、指導も行なえるレベルの作業員には「全能工」という役職が与えられ、インセンティブを付与するとともに、幹部候補としてさらなる育成が行なわれることになる。その他、ラインを統括するラインリーダーには、製造現場のコスト意識を高めるために、ラインごとの損益を毎日算出させているという。これにより、ライン全体の能力や作業員のモチベーションが高められている。
その他、作業員からのラインや作業効率の改善に関する提案も常に受け付けているという。実際に、作業員の提案で改善された部分も非常に多いそうで、作業員自らが働きやすい環境を整えようとする姿勢が見られる点からも、モチベーションの高さが伝わってくる。つまりTIHは、日本式のものづくりの意識に、現地中国人の気質を掛け合わせ、現地に根ざしつつ高品質な製品を生み出す仕組みを作り上げているわけだ。
TIHの作業員は、2016年6月末で1572人だが、そのうち日本人駐在者は開発部門も含めてわずか13人で、課長級はすべて現地採用の人員となっている。また、中国の企業では作業員の離職率の高さが問題となることがあるそうだが、TIHでは能力に優れる全能工は離職率がほぼ0となっているそうで、こういった部分からも、TIHが地元に愛される存在となっていることがわかる。
しかも、東芝が全世界の作業員を対象として実施している「全東芝テクニカルコンテスト」の「はんだ付けコンテスト」や「電子機器組立コンテスト」では、2014年以降、毎年TIHの作業員が優秀賞を獲得しているそうで、作業員の能力は全世界の東芝の工場の中でトップクラスだ。このように、地元に愛され、能力に優れる作業員が多く在籍しているということも、TIHから送り出されるdynabookの高い品質を裏付けている。
一般的に、中国で製造された製品は、品質で日本製に劣るというイメージがあるかもしれない。おそらくその要因は、工場の環境やインフラ、作業員の能力、モチベーションといった部分にあると考えられる。しかし、今回実際にTIHを見学してみると、そういった部分の問題は一切感じることがなかった。
工場のラインは多くが自動化されるとともに、内部は整理整頓されて環境も優れ、作業員の能力が優れるのはもちろん、作業員のモチベーションも高く、設備から作業員の能力まで、日本と同等以上の品質が確保できていると確認できた。個人的には、TIHから送り出されるdynabookには、品質に対して全幅の信頼を寄せられると感じたほどだ。今後dynabookは、全製品がここTIHで製造され送り出されることになるが、品質に関して心配する必要は皆無と言ってよさそうだ。
提供:東芝