高橋社長の4つの要望
そして、高橋社長が示す4つの要望という内容からも鴻海優位の状況が見え隠れする。 「両社に対しては、シャープから、4つの要望を出している。ひとつは、シャープという会社のDNAを残すこと。2つめは、生産拠点を含めて、従業員の雇用の最大化を維持すること。3つめは技術の海外流出がないこと。そして、4つめには、単に資金だけの問題ではなく、これらの3つのポイントを加味した好条件であること」
1つめについては、「将来に向けて、成長するにはシャープがカンパニーごとに分解されることは大きなマイナスになる。いまの一体性を保ちながらやっていきたい」とし、鴻海案が有力であることを示す。ただ、この点は、液晶事業とそのほかのプロダクツ事業との2つに分離することは、それぞれにDNAが異なるとして容認する姿勢をみせており、産業革新機構の支援案にも理解をみせる。家電事業などの分離が、産業革新機構の懸念材料といえるだろう。
2つめについても、やはり鴻海案が有力だ。雇用の維持を明確にうたっているのは鴻海側だ。そして、3つめは鴻海側に対する懸念であるが、「鴻海とは過去3年間に渡って、液晶生産のSDP(堺ディスプレイプロダクト)を共同出資で運営しており、この間、大型液晶パネルに関する技術流出はなかったと理解している。鴻海が全体なマジョリティーを持ったとしても、そうはならないと理解している」と説明する。
さらに、「鴻海は、EMSとしての強い部品調達力、生産力を持っており、これを生かすこともできる。シャープは、液晶テレビ事業については、欧州、米州でブランドビジネスをやっているが、BtoBの観点から、鴻海の販売力、顧客へのアプローチといったメリットも考えられるだろう」とした。これは4つめの点で、実際に事業を行なっている鴻海側のプラス要素になる。
そして鴻海側は、現経営陣への退任要求を盛り込んでいないという点も見逃せない。 高橋社長は、「経営陣が残ることを目指して選択するわけではない」としながらも、「いま実行している構造改革を全力でやりきることが経営責任である。その先がないということであれば力が出ない。だから、それ以降については考えていない。産業革新機構か、鴻海精密工業かのどちらかに渡せば、それで仕事は終わりだとは思っていない。あとは勝手にやってくださいと、単純に放り出すつもりはない。5年後、10年後に、社会やお客様のお役に立てるのかということを考えていく」とする。
支援先の選定は、高橋社長が示した1ヵ月を待たずに結論が出る可能性もある。日本の技術力を流出させないという点にこだわるのか、それとも国際競争のなかでの判断が優先されるのか。その判断が注目される。
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