【後編】『楽園追放』プロデューサー野口光一氏インタビュー
アニメ『楽園追放』は"社会の壁"を壊してヒットを勝ち取った
2015年02月08日 15時00分更新
東映アニメーションで正社員になった途端、部署異動が
野口 だからちゃんと結果を出さないと、いつ切られるかわからない。そんな状態がずっと続くのは疲れるよな、と。
それでふと日本の状況を確認したら、日本でもCG映像でドラマを作れる時代になっていたので、倒産を機に帰国しました。
―― その後、CG制作会社を経て東映アニメーションに。
野口 東映アニメーションには、『デビルマン』の際に「VFXができる人を……」ということで呼んでもらったんですよ。その後『男たちの大和/YAMATO』をやったり、NHKの『坂の上の雲』(第一部)のために出向したりと、ずっとプロジェクトごとの契約だったんですけど、NHKから戻ってきたところで正社員になりました。
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―― どうして正社員の道を選ばれたのですか?
野口 プロジェクト契約でも良かったんですが、当時は不景気だったので、「子どももいるし、この時期に正社員になれって言う会社さんはなかなかないよ」と周りのみんなに諭されまして。『まあ別にいいか。待遇は変わらないと言うし……』と。
―― 正社員になって、何か変わりましたか?
野口 いざ入社したら、それまでいたCG部から、できたばかりの映像企画部へ部署異動になりまして。
勤務地も、スタジオがある大泉から、急に事務方中心の神楽坂に。映像企画部も立ち上がったばかりで最初はコンピューターもない部署だったんですよ。当然3DCGを作れる環境もありません。つまり仕事環境が180度変わりました。
……社会って、そういうものですよね(笑)。
―― (笑)。ものづくりの仕事から、別の仕事にシフトさせられる予感がしたのですね。
野口 はい。経営者の方がこれからはCGアニメが増えると考えておられたようで、誰かをCG部から映像企画部にと思っていたようです。
それで異動となったのですが、CGアニメをやるには「制作テストでCGを使わなきゃいけないので」と言って、コンピューターが部署に入ったとき、一緒に3DCG制作用のソフトを入れてもらいました。
ただ、良かったのは、企画部にいても、毎年1本ぐらいはVFXの仕事をやらせてもらったことですね。
NHKの大河ドラマ『平清盛』で撮影の設計などのVFXスーパーバイザーをさせてもらった後、楽園追放でプロデューサーになってからも『はやぶさ 遙かなる帰還』『女信長』『幕末高校生』『甲殻機動戦記ロボサン』などにVFXスーパーバイザーとして携わることができました。
“ものを作るのはこっち、プロデュースは楽園追放だけ”という形が作れたことで、なんとなく心のバランスがとれたのでしょうね。ものを作るときは、プロデューサーのときみたいに周りとの調整を考えず、自分が好きなことに没頭して、良い映像を作ればいいだけですから。
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FINAL WARSと聞き、「どうしてもゴジラをやりたい!」
1年以上かけて参加方法を探る
―― ものづくりのほうが、没頭できますか?
野口 ものづくりの最中は没頭できるんですけど、その仕事をもらうまではやっぱり外側との交渉が必要です。そして、交渉って社内でも発生するんです。自分がやりたい仕事をもらいに行くわけですから。
『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)の制作が決まったときもそうでした。
ゴジラが日本で作られる。子どもの頃から憧れたあのゴジラの映像をついに作ることができる!と思ったんです。それで「やりたいんですけど」と申し出たら、「ちょっと待った」という声がかかりました。
「うちは東映だよね。ゴジラは東宝だよね。東映で、東宝は無理だよね」って。
―― 配給会社からして違うというのは大きな壁ですね。一方で、会社の反応も理解できます(笑)。
野口 その後は『ハッピーフライト』(2008 東宝)や、『ヤッターマン』(2009 松竹)も参加していますから珍しいことではないのですが、当時はそういった反応でした。
会社に入ると、いかに“壁”を突破するかという悩みがとても多くなります。これは楽園追放のプロデューサーになってから痛感しましたが、自分が「これがベストだ」という形でやろうとすると、突破しなくちゃいけない壁がすごく増えます。
話を戻すと、ゴジラのタイトルに「FINAL WARS」って付いてるじゃないですか。ファイナルですよ、これでもう日本で作られることはないかもしれない。必死ですよね。ここはやるしかないなと思って、いろいろなツテを頼って1年ぐらいアプローチして、やらせてくださいよと言っても「いや、東映で東宝でしょ」とはねられる。
あきらめかけてたときに、ゴジラの撮影には、東映の撮影所も使われることがわかったんですよ。
そこで、「ゴジラは東宝さんだけど、東映の撮影所も使っていますよね?」という話に持っていくことで、会社から「まあ、そういうことだったら」と許可をもらうことができまして。結局、(念願のゴジラ映画を)30カットぐらい東映アニメーションで担当できたんです。
(次ページでは、「“大人向けアニメのノウハウ”を求めて、会社の垣根を越える」)
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