『翠星のガルガンティア』村田和也監督インタビュー 前編
村田監督と虚淵玄氏が回した“利他的な歯車”
2013年10月12日 12時00分更新
社会に出た若者が「誰かに喜んでもらうために
自分は何をすればいいのか?」を模索していく物語
―― 「仕事もの」だという本作品ですが、特に“若い人への後押し”と位置づけたのはなぜでしょうか。
村田 本作で言う「仕事」というのは、まず第一義に「社会に出て働くこと」として位置づけています。その入り口に立つ若い時期というのが最も、「自分のやるべき仕事は何か」「自分は何のためにこの仕事をやっているのか」ということについて考え悩む時期だと思うので、その人達の視点でものごと見て、考えて行くことで、「仕事」というものを浮き彫りにして、結果としてそれが若い世代の人達に対して何かしら役に立つものになるといいな、というのが基本的な考えです。組織に命じられた仕事をこなしていても、どこか空回りしてしまうんですよね。
人のために何かをしていくことって、子供時代は自然にできているんです。親の前で元気な姿でいること自体が親に対して幸せを与えている。友だちと遊んだり勉強したりして一緒に楽しく過ごすのは、それだけで互い利益を与え合っている。自然にそんな利他的な存在でいられる。
ところが社会に出て仕事をし始めると、喜びを与える対象が突然「赤の他人」になるんですよね。
いままでは、目の前にいる誰かのために、目に見える喜びに繋がる何かをしていればよかったのに、会社に入って仕事をし始めたとき、最終的なお客さんというのは目に見えないところにいることが多いと思うんですよ。そうしたときに、その見えないお客さんに対して自分が何をなし得るのか、どんなことが喜びに繋がるのかわからない。未知の領域に入ってくる。
―― お客さんと直接対面する職種以外は、お客さんについてわからないまま仕事を始めることになりますね。
村田 心のなかでは、やはり利他本能が働いているから、基本的には自分がお客さんのために何かをしたいという意欲がある。会社の上司や仲間の役に立ちたい、ありがとうと言われたいというのもある。利他本能というのは言い方を変えれば「褒められたい」本能です。人はどんな時でも褒められると嬉しい。それって、常に利他本能が働いているということです。
若いうちは、やりがいがいまいち見えなかったり、頑張っているのに空回りする。自分的には結構頑張っているんだけど、周りから怒られたりとか、いまいち効果が出ない、みたいな状況が続くんですけれども、それは、どうすれば自分のお客さんが喜んでくれるかが分からないからです。自分にそれを達成するスキルが足りていないからでもあるし、お客さんが何を求めているのかを理解しきれていないからでもある。そもそも自分が客になったことのないジャンルの仕事だったりしら、お客さんが何を欲しているか、その気持ちを想像すら出来ないですし。
―― レドも、船団で自分にできる仕事はないと落ち込んで、忙しそうにコンテナを運んでいる人たちから少し距離を置いて「待機」しているシーンもありました。そうした空回りを、若い人もしているということですね。作品では、レドの空回りをどんな描写をすることで解消していきましたか。
村田 レドの描写では、仕事で失敗したり、待機状態にされたりするうち、少しずつ、人々が何を求めているのかを学んでいきます。相棒のロボット・チェインバーを使って雨を集めたりしていくうちに、だんだんどうすれば人の役に立ったり、喜んでもらえるのかということを感じ取っていく。そうした描写を、レドがガルガンティアに来てからの時間経過を意識しながら順番に積み上げていきました。
自分がどうすれば、他人からどういうフィードバックが返ってくるか、それを幾つも経験することで学習して獲得していく、ということですね。現実世界でも同じですけれども。
―― フィードバックと経験ですか。
村田 「時間」が大きいでしょうね。そういったことを意識しながらある程度キャリアや経験を積んでくると、どうすればまわりが喜んでくれるか、まわりの役に立てるのかがちょっとずつ見えてくるんですね。
世の中との間合いがとれるというか、歯車がかみ合った状態になってくるんです。
特に、30代、40代になってからというのは、ようやく歯車の歯がかみ合って、自分が回れば回るほど相手も回ってくれるという状況が発生するんですよね。人の回転も受け取れるようになるし、自分の回転によって世の中が動いていく感覚が得られる。お客さんに対しても利益を与えられるし、組織も成長していけるし、みたいな状況になると、それはもう仕事が面白くてしようがないという状況になっていく。
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