カオスだった河口湖レコーディング
―― それは、この手法でレコーディングした理由にもつながると思うんですが。
佐久間 その気でやれば、一回でOK取れちゃうくらい、このバンドの演奏力は高い。だったらドラム録って、ベースをダビングして、みたいなことはやらなくていいんじゃないか。ライブでもやっている曲だし、10曲やっても1時間半あれば終わると思ったのね。
中崎 ふっふっふ。それが……。
佐久間 そしたら意外とみんな間違えたりして、それで疲れてきて余計に長くなったりとかするんだけどね。で、そういうレコーディング風景をUstreamで中継しようと。そういう中継はすでに向谷(実)くんなんかがやっているけど、一発録りでアルバム全曲を録るというのは、おそらく例がないと思うのね。
―― 聞いたことがないですね。
佐久間 中継用に出す音声も、最終的なミックスと近いものにしたかった。そのための手法として考えたのが、一度全曲レコーディングして、それをProToolsでミックスする。そのミックスデータに合わせて、生演奏するということ。
―― えーと、ミックスデータというのは、フェーダーやエフェクトの動きを記録しているものですよね。その動きに合わせて演奏するということは、ミキシングのオートメーションとの同期演奏ということですよね?
佐久間 そういうレコーディングって聞いたことがないでしょ? それができるメンツだから。レコーディング中なのにUstreamにも完パケに近い状態の音声が流せるし。
―― あの、ぶっちゃけて言うと、実はこの方法でやると安上がりだとか。
佐久間 ああ、それもあるよ。スタジオのセットアップや、ミックスデータを作るための準備に2日間。本番のレコーディングが5時間ちょっとだから。
中崎 3日間だったらベーシックのリズムが5曲くらい録れるかな、くらいの感じですもんね、普通は。まあ、裏では大変な努力をしているわけですが。
―― というと?
中崎 録りの前に(ミキシング用の)オートメーションまで書かなきゃいけない。
佐久間 バンドは演奏すれば終わりだけど、僕ら二人は残業。僕がアホなミスをやるから、それをチェックしてもらったり。
―― アホなミスって?
中崎 ミュート入ったままで「聴こえない」って言ってるから。佐久間さん、それミュート入ったままですよ! とか。
佐久間 トラック数がものすごく多いのね。40トラックくらいあったかな。それでミュートを忘れるわ、何は忘れるわで。
中崎 それに本番になるとレベルが違ったりするんですよ。
佐久間 演奏変わるからね。それを追いかけてリアルタイムで操作していかなければならない。そりゃもう戦場のような状態で。
中崎 5時間、目を皿のようにして。メモリもパンパンなので、段々ProToolsの動きもおかしくなってくるんですよ。それで皆が雑談している間に、こっそり再起動とか。
佐久間 なおかつUstreamで流してるから、音がトラブっちゃまずいし。途中で挫折するとカッコ悪いじゃない。そんな企画で始めちゃったわけだから。
―― それはプレッシャーだなぁ。録れてなかったら責任問題ですもんね。
佐久間 それにバンドは毎晩宴会状態で、明け方まで酒のんで大騒ぎしてるし。朝までウッドベース弾きまくってたりとか。
中崎 次の日は本番なのに、弾き過ぎて「手が痛いー」とか。
―― でも、逆にすごく音楽的なレコーディングですよね。最近のシステマチックなレコーディングでは、そんなのあり得ない。
佐久間 うん、すごく音楽的。ないよね、ここまで馬鹿なレコーディングは。
―― またやりたいですか? おんなじスタイルで。
佐久間 はっはははは。
中崎 まあ、やれば楽しめると思いますけど。
(次のページに続く)
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