ではなぜ日本企業は「変化」「成長」を怖れてしまうのか
―― 本来であれば、日本のメーカーがこの変化を先取りして欲しいところですが。
夏野 いや、ほんっとにそう思います。
こないだ、ソニーのHDDレコーダーを買いに行ったんですよ。そしたら1TBで12万円。2TBだと24万円だって。もちろん機能の差もあるんでしょうけど、パソコン用のHDDって1TBで6000円くらいまで下がってるじゃないですか。
日本だと、市販のHDDをテレビにつなげばレコーダーになるという仕組みもなかなか、放送事業者に対する遠慮やしがらみがあってできない。この感覚だと、ちょっと持たないんじゃないかと。これじゃまずいと思います。
テレビが限りなくパソコンに近づくということは、かなり頭の転換をして、ユーザーサイドに立って、何が良いのかという観点に立って製品化を進めていかないと、大変なことになりますよ。
―― 私もつねづね、なぜそうできないのか不思議です。なぜなんでしょう?
夏野 そりゃもう単純に、そういう感覚をもった経営者・リーダーが不在だということにつきると思います。これまで「テレビだから」という理由でやってこなかったことがいっぱいあったはずです。そういったものは徹底的に見直さなければならない。
アップルだってジョブスがリードしたから、パラダイムシフトの時に、組織を動かすことができた。いままでの延長線上で改善をする、安くするというのは日本が得意とするところです。でも、Atomプロセッサーを採用する、ネットに接続するということは、明らかにパラダイムシフトです。
パラダイムシフトに対応するということは 何かを犠牲にしなくてはいけない。これまでにあったものを捨てなければならないんです。
テレビであれば、ブラウザーが間に入ることで、起動時間はどうしても従来よりも遅くなる。現場は「今の製品の方がいいよ」という声に支配されがちです。そこにリーダーが「多少の犠牲を払っても乗り換えろ」と号令をかけないと巨艦は動かない。
―― ソニーの出井元社長は、ネット対応を早くから唱えていましたが、早すぎたのかもしれませんね……。
夏野 今回、グーグルと組むと決断したソニーが素晴らしかったのは、自らの組織の中で変化を起こすのではなく、グーグルと組み、ある意味で強制的にネット接続テレビを実現してしまおうというトップの判断があったからです。
―― 本来、ソニーであればハードウェアメーカーの領域にとどまらず、ネット接続のプラットフォーム作りから主導してほしかったという気持ちもありますが……。
夏野 わかる。それはぼくも同じ。だから一抹の寂しさを感じながら、それでも「英断」だと思ってます。ソニーがテレビメーカーとしていち早く名乗りを上げたのはやっぱり大きい。業界に対してもインパクトもある。トップが動いたわけですから。
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