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動画サイトってどうなの? 儲かるの? 第7回

ドワンゴ・夏野剛氏が語る「未来のテレビ」【後編】

2010年07月21日 12時00分更新

文● まつもとあつし

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「iモード」に見る、日本のデバイスとインターネット

―― テレビというハードウェアが本格的にネットに接続され、新しいプラットフォームになるという状況は、かつて夏野さんがドコモで手がけられた「iモード」と似ているとも感じています。

夏野 グーグルがGoogle TVで握っている主導権は、OSを提供しているというところではなく、やはり大元の検索サービスで主導権を握っている。だからマイクロソフトが仮にOSのレイヤーで入ってきたとしても、引き続き主導権を握ることができますよね。

 じゃ、日本がグーグルのようなポータルサービスをこれから作れるのか。そう言ったらもう無理ですよね? そこはもうダメ。違うところで勝負しないと。

日本企業はグーグルと「戦う」べきではないと話す

―― 今回、テレビについては大元の部分では勝負はついてしまったわけですね。では、どうやったらiモードのように、海外にチャレンジすることができるプラットフォームを生み出すことができるのでしょうか?

夏野 本当にグローバルにならなくてはならないのか、というところをよく考えた方が良いです。ものによる。グーグルのサービスはグローバルだから、絶対彼らの方が有利だ。そうではないと思うんですよ。

―― なるほど。しかし、iモードは海外展開(標準としての採用)に動いて、でも結果としてうまくいかなかった経緯があります。

夏野 規模から見てほしいんですよ。ドコモは当時4兆円の売上げのうち、iモードの海外収入なんてせいぜい数十億。それに本気になるはずがなかったんですよ。当時ドコモの社長から言われていたのは「金をかけずにやれ」ということだったんです。「それじゃ、やる意味ないですよ。やんなくていいですよ」とぼくは言ってたんですけど。担当役員としてやっていた理由は簡単で、「標準化に対して、日本が孤立しないため」だったんで。

―― 孤立というのは、つまり……。

夏野 iモードって、ガラパゴスの象徴みたいに語られることが多いですよね。でも、海外では誰もそんなふうに扱ってないですよ、むしろHTML(サブセット)ですから。いまのiPhoneでやっていることを、8年前に実現していたわけですからね。

 海外から技術がほしいというリクエストもありました。「ならやるか」という感じで。でも本当にビジネスモデルとしてやっていくのであれば、海外のパートナーに出資して、マジョリティをとってやっていく必要があった。でもそれはダメ。

 もう1つ、端末の共有をしていなかったこともありまして。向こうはGSM。これからはW-CDMAだから国際共通だろうというのが、当時のドコモ社長の意見だった。結局、日本の端末をそのまま持って行くことができなかった。海外向けに一番iモード端末を作ってくれたのは、それこそサムソンだったんですよ。

(紙にケータイのしくみを書いて)日本だけが端末の共有をしていなかったという

GSM : 当時の2G(第2世代携帯電話)の通信方式は、日本は海外のデファクト方式と異なり、PDCやcdmaOne方式を採用していた

―― なるほど、当時はドコモの事情に加えて、通信方式の壁は確かに大きいですね。ソフトバンクの孫正義社長と池田信夫氏の対談のファシリテーションをされていたのも記憶に新しいところですが、現在では、周波数帯の割り当てが今度は課題になっています。

夏野 「放送法と通信法の一本化」といった議論にはあんまり関心がないんです。法律は後づけなので、そこはあまり重要じゃないと思っている。けれども周波数帯の割り当ては「行政」ですよね。裁量ですからね……。

 まあしかしいずれにしても、もともとドコモはドメスティックな会社なので、iモードがうまくいかなかったから、プラットフォームで主導権を握れないんじゃないか、という論調になってしまうのは本筋ではないと思います。

 もともとiモードは世界を狙ってないんです。むしろ、PlayStationやWiiのようにはじめから世界を狙っているプラットフォームで考えてみる必要があると思います。

孫正義氏と池田信夫氏の対談の模様はニコニコ動画でアーカイヴ(保存)されている

―― わかりました。話を戻しますと、ではSCEや任天堂のようなゲーム会社はネット対応型のプラットフォーム構築にうまく対応できているのでしょうか?

夏野 まだダメですね。全然利用者が少ない。ネットが重要なインフラになって10年ですが、まだそこに対応し切れていないということだと思います。先ほどお話ししたように、商品開発をトップが率いていく必要があると思います。

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