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山谷剛史の「中国IT小話」 第66回

ネットカフェ国有化に抵抗を見せる中国ネットユーザー

2010年03月09日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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なぜネットカフェを国有化するのか!?

深夜でも多くの若者がネットカフェを利用する

深夜でも多くの若者がネットカフェを利用する

 なぜネットカフェを国有化したがるのだろうか。「中国政府」と「ネット」のキーワードが絡めば、「言論の統制をしたい」と想像しがちだが、今回はそれ以上に、ネットカフェを一掃することでネット依存症の若者を劇的に減らそうというのが狙いのようだ。

 厳琦氏は中国メディアのインタビューに対し、ネットカフェに入り浸る中高生の多さ、インターネット依存症の若者の多さ、小学生までネットカフェに入り浸る状況を打破しようとする思いばかりをコメントしている。

 中国のネットカフェは、日本のまんが喫茶以上にアミューズメント色に染まっている。だいたいどこのネットカフェにおいても各端末にはビジネスソフトとして、OfficeやPhotoshopがインストールされているが、それを利用する利用者はないといっていいほどで、店内で見回してみれば女性はチャット、男性は動画視聴かオンラインゲームをしている。

 オンラインゲームについては中毒性が強いのは日本と同じで、ゲーム機のゲームよりもオンラインゲームのほうがよりメジャーな中国では、過去にオンラインゲームにハマりすぎたばかりに死に至るケースもたびたび報道されている。

 省都クラスの街では、ゲームセンターやカラオケ、ボーリングなどほかの娯楽施設もあるのだが、30分1元(約13円)のネットカフェに比べればずっと高く、ネットカフェは「最も」かつ「飛び抜けて」コストパフォーマンスに優れた遊戯施設ともいえる。

 とはいえ、既存ネットカフェを全部一掃してしまえば、超格差社会の中国でパソコンが買えない低所得者層にネットを使う機会がなくなってしまう。そこで厳琦氏は「ネット環境がない人々へのフォローとして公共ネットカフェを設立する」と言っている。

 厳琦氏の話しぶりを見るに、公共ネットカフェを「まんが喫茶」ではなく「Kinko's」のような、パソコンが使えてネットも利用できるビジネスセンターにしたいという意図が見える。

 つまるところ、ネットカフェ国有化の狙いとしては「ネットは親が監視できる家庭内でほどほどに遊びましょう」というのが最たるものであろう。

 オンラインゲームを利用するには、そこそこのパフォーマンスがパソコンに求められるが「そこそこのスペックのパソコンが買えないなら、オンラインゲームは諦めましょう」ともいえる。

 本当にネットカフェが国有化されたときには、「盛大」「QQ」「網易」「巨人」などのオンラインゲームを扱う上場企業の業績が悪化する可能性は高いが、ウルトラCとして、オンラインゲーム利用者が、何が何でも遊ぶべく、親を騙してでもハイスペックなデスクトップパソコンやビデオカードを一斉に購入するかもしれない。


親になったファミコン世代のように
中国はネットカフェに寛大になる!?

 念のため「言論の統制」の方面でネットカフェ国有化を考えてみると、現在ネットカフェ利用には身分証明書(外国人ならパスポート)の提示が必要とはなっているが、実際のところすべてのネットカフェでキツキツに実施されているわけではない。

 ネットカフェが国有化されれば、利用者の実名登録が徹底して実施されるだろう。それにより、ネットカフェからの匿名での「よろしくないサイトへのアクセス」や「掲示板上でのよろしくない書き込み」などはできなくなる。とはいっても、中国の省都クラスの都市では、無線LANを開放するカフェもかなりあるので、何か企らもうならばそうしたカフェを利用すればいいだけの話。

 「中国は日本の数十年前のようだ」とはよく中国を形容する際に出てくる文句だが、今回の件にファミコンやスーパーファミコンが全盛期だったころの、ゲームに理解を示そうとしない親世代を思い出す。ひょっとしたら30年後は、中国政府はネットカフェにもっと寛容になっているかもしれない。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)

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