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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ

Twitterはコミュニケーション革命なんかじゃない

2010年01月08日 06時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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カモメ

 知床半島を海上から見て回る船に乗ったことのある人はご存じだと思う。カモメたちが甲板に立つ観光客の手の届くところまでやってきて、競うようにカルビーの「かっぱえびせん」をくわえていく。その間、船はエンジンをゴンゴン鳴らして水面を強引に引き裂きながら前に進むが、カメモは風に乗ったグライダーのようですらある。羽ばたきもするが、オホーツク海の強い風と重力のバランスを上手くとっている。

 大自然のまっただ中で暮らす鳥や魚はもちろんだが、地上生物でさえ自然法則を十二分に活かしている。『運動会で1番になる方法』という本を企画したときに、著者の深代千之さんに教えてもらったのは、「カンガルーは速く走っているときのほうが疲れない」というお話だった。ゆっくり動くときは筋肉を使うが、速く走るときは「靱」をバネにゴムボールのように跳ねていくので、疲れないのだ。

 それに比べると、人間が使う機械というのは、なんとも効率の悪いことが多い。車輪の発明によって前に動くことに関しては効率的にはなったが、これを動かす部分の効率がいまひとつだ(ガソリンエンジンしかり、電気自動車しかり)。人間の創造物で自然のエネルギーを上手く使っているといえば、風車、帆船などが思い浮かぶが、動物たちのエネルギー効率には遠く及ばないのではないか?

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Twitterをドライブしているのは
人が生み出す「ノイズ」

 さて、カモメが空を飛ぶとか、カンガルーが走るとかは物理的な運動エネルギーの話だが、実は動物は、脳の活動についてもエネルギー効率がいいらしい。

 しばしば、脳は体重の数パーセントくらいの重さしかないが、消費するエネルギーは30%にもなるという話を聞く。しかし、一般的な人間の1日の消費エネルギーは、カロリー制限をしたことがある人なら何となく覚えているだろう。脳が消費するエネルギーも、1日400キロカロリー程度なのだそうだ。これって、電球でいうと、トイレについている奴よもり小さい20ワットくらいの(たぶんゴルフボールくらいの)電球である。

 脳というコンピュータは、なぜそんなにエネルギー効率がよいのか? カモメが、風の力や重力を自分のものにしていたように、カンガルーが靱のバネ作用を生かしていたように、脳も自然エネルギーをうまく生かしている。それは、「ゆらぎ」や「ノイズ」だそうだ。つまり、ラジオで「ザザーッ」と入ってくる雑音とか、何らかのうねりのようなものとか、なめらかな表面に落ちているチリのようなものとか……。少なくとも、ノイズについては、本来いらないもののように見える。人間の産業社会では、むしろ邪魔もののように扱われてきたものである。

 ちょっと専門的な話になるが、コンピュータ系でノイズを活かしているものに、「遺伝的アルゴリズム」(GA)がある。人工的に(ソフトウェア的に、バーチャルに)作った遺伝子を交差させることを繰り返しながら、より優れた遺伝子(問題の答え)に近づけていこうというものである。

 このときに、「ノイズ」が重要な役割を果たす。2つの遺伝子を掛け合わせて1つの遺伝子を作り出すことを繰り返しているだけでは、答えに近づかないのだ。そこで、突然変異的なノイズを加えてやることで、いきなり答えに近づくことがある。自然界では宇宙線(大気を突き抜けて宇宙からやってきた放射線)がそのきっかけとなる。遺伝的アルゴリズムを使って、私も「パングラム」(26個のアルファベットの文字を1回ずつ使った文を作る)を解こうとしたことがあるが、ノイズの効果を目の当たりにして驚いた経験がある。

 11月はじめに、『週刊アスキー』増刊の企画で、脳の研究者である池谷裕二さんにお話をうかがった。その中で私がいちばん興味を持ったのが、「脳はノイズを駆動力にしている」というお話だった。実は、脳の消費カロリーが20Wの電球くらいというのは、池谷さんのした話なのだ。

 脳細胞は、たとえば1000個の入力があって1個の出力がある、というような構造をしている。そんな素子が1000億個くらい集まった巨大なネットワークが脳だ、と言っていいだろう。そのネットワークは、脳の活動とともに自身を書き換えていく。脳細胞同士のつながりの強さを変化させながら動いている。遺伝子とはメカニズムは異なるが、どんどん書き換えながら動いていくという点では共通している。こうしたシステムでは、遺伝的アルゴリズムがそうであったように、ノイズが重要な役割を果たすようなのだ。

 ノイズに関しては、池谷さんの著書に「確率共振」という現象の話も出てくる。たとえば、白い紙に20%の濃さで文字を書く。この文字の濃さをどんどん薄くしていくと、あまりに薄すぎて人間の目では文字が読めないところまでくる。ところが、その上にパラパラとゴマのような黒点のノイズを撒いておくと、あら不思議、文字が浮かび上がって認識できるようになる。脳の計算理論やネットワークとどう関係するかまでは説明できなくても、いかにも邪魔なだけに思えるノイズが、とても有効な力を持っているということはわかる。

 どうも「ノイズ」というものは、とても可能性があり、また面白いものらしい。そして、2009年秋頃から日本でもブレイクしている「Twitter」の持つパワーの秘密は、実は「ノイズ」ではないかと思うのだ。

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