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「ASCII Research Report」 リアルタイムウェブ時代の企業ブランディング セミナー

Twitter界の著名プレーヤーが語る、Twitter企業活用の鉄則

2010年04月16日 09時00分更新

文● まつもとあつし 写真提供●ケツダンポトフ(http://ketudancom.blog47.fc2.com/ )、ASCII.jp

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リアルタイムウェブ時代の企業ブランディングセミナーの模様

 3月29日、内田洋行ユビキタス協創広場CANVASにおいて、アスキー総合研究所とKandaNewsNetwork,Inc.(KNN)が主催する「リアルタイムウェブ時代の企業ブランディング」セミナーが開催された。TwitterやUstreamをはじめとする「リアルタイムウェブ」と呼ばれるサービスが広がる中、ビジネスにはどのような変化がもたらされるのか、企業はどう活用していくべきなのかについて、事例を交えながら考えていくイベントだ。

 同セミナーは、キーノート、第1セッション「企業はソーシャルメディアといかに取り組むべきか?」、アスキー総研からの調査レポート「データで見るTwitterの利用実態」の紹介、会場となった内田洋行ユビキタス協創広場CANVASの紹介ツアーを経て、第2セッション「ソーシャルメディア事例:“つぶやき“ではなく“対話”へ~」という構成で行なわれた。

 このリポートでは、キーノートならびに第1セッション/第2セッションでのディスカッションを中心に、その詳細をお伝えする。


キーノート
「知識ビジネスの歴史から、現代のTwitterブームを読み解く」

 セミナーは、UstreamのLive中継で知られる、ビデオジャーナリストのKNN神田敏晶氏のキーノートで幕を開けた。神田氏は、インターネットとeコマースの歴史を紐解きながら、その本質を解説した。

KNN神田氏

KandaNewsNetwrok,Inc.(KNN)神田敏晶氏。ネットサービスの歴史は、いわば「親殺しの歴史」と解説

 神田氏のキーノートは、クロマニョン人時代の言語の獲得による情報共有の開始に始まり、15世紀のグーテンベルクの活版印刷技術による知識共有の開始、18世紀のブリタニカ・ビジネス(百科事典の月賦販売)による与信ビジネスの本格化、19世紀のエジソンの電気の発明、周辺のインフラ・プラットフォームへの拡がり、そして20世紀のカタログ販売からネット販売へのハイブリッドモデルの進化など、さながら知識ビジネスの年表といった趣きだった。

 そして、ネット分野における近代史を、神田氏は「親殺しの歴史」と解説した。つまり、ネットは従前のサービスの改善・改良から生まれてきたサービスが、元のサービスのシェアを奪う形で進化してきたという。現在はTwitterがGoogleのシェアを奪っている状況で、神田氏によれば、UGP(User Generated Protocol)がその鍵を握っているという。

 こういった進化の中にあって、神田氏は人々が「ネットに求める7つの煩悩」があると語る。

  1. Knowledge機能……知識を満足させたい・調べたい
  2. Business機能……ビジネスにしたい・儲けたい
  3. Skill up機能……向上したい・上達したい
  4. Time機能……時間を短縮したい・暇を潰したい
  5. Agent機能……お任せしたい・忘れたい
  6. Fun機能……楽しみたい・面倒から逃れたい・癒されたい
  7. Gain機能……得をしたい・損をしたくない・より深く関わりたい

 企業は、これらの欲求のどれを満たすのか、常に意識しながらサービスを設計・運営していくことが重要になる。

総務省情報流通センサス

総務省の情報流通センサス(2006年)より。この10年で、消費可能な情報量は33倍になったのに対して、選択可能な情報量は530倍になった

 そして、リアルタイムウェブを考える際に重要なポイントは、人々が受け取る情報量が、過去10年間で爆発的に増加していることだと神田氏は指摘した。

 総務省の「情報流通センサス」(2006年)によると、人々が選択可能な情報量はここ10年で530倍以上になったにも関わらず、消費可能な情報量は33倍にしか増えていない。つまり、ブロードバンドインフラやIT機器の進化によって情報処理能力は効率化されているものの、人々が受け取る情報はそれを遙かに上回る量に達してしまっているというわけだ。このような状況にあるなか、人々の“アイ・ボール”(眼球、すなわち注目や関心の意)を獲得するのは、より一層難しくなっている。

 そこで、神田氏は、先ほど紹介した百科事典ビジネスのその後の進化に着目する。

 ブリタニカ大百科に関わる人員は全世界で5万人ともされていたが、デジタル化された百科事典――例えばマイクロソフトの「エンカルタ(Encarta)」では1000人の規模。そして、ソーシャル百科辞典とも言える「Wikipedia」は、専任で働いているのは10人程度という。

百科事典のメディア遷移

百科事典のメディア遷移。デジタル化とソーシャル化が進むに伴って、運営に必要な人的リソースが劇的に軽減されていった

 そして、発信・共有される情報量の増大と、それに必要なリソースの減少という関係が、直近のネットサービスにおける変化にもそのまま当てはまるのではないか。

 これは「index media」(Yahoo!) → 「search media」(Google) → 「social filtering media」(Twitter)という進化であり、現在はTwitterに代表されるソーシャルフィルタリングに移行している最中にある。これらの課程において、サービスを開発・維持するために必要な人数は順に少なくなっているのに対して、情報量は増大している(Twitterの総つぶやき数は、GoogleがクロールしているWebサイト数をすでに大きく上回っている)。

 そういった変化を踏まえて、神田氏がビジネス・ブランディングに重要な要素だと強調するのは、以下のような点だ。

  • モノフォニック(単一的)な雇用市場はシュリンクしていく
  • 利用者はソーシャル化によって爆発的に増える
  • 「価格」という需要と供給のバランスが変化
  • ポリフォニック(多層的)な雇用市場が拡散
  • リアルタイム消費の受け皿が急務!
  • 信頼(エンゲージメント)と広報
  • 信頼(ブランド)とサポート
  • 信頼(?)=なかの人

 活版印刷の浸透によって、写本師と呼ばれる人々の雇用が失われた(シュリンク)。一方で、彼らは新たに生まれたインフラ・プラットフォームを支える人材として拡散していったという歴史がある。そういった歴史を踏まえて、消費のリアルタイム化にどう対応していくのかを、企業は考えていかなければならない。そして、その際には消費者と「信頼」を築けるかどうかが重要になっていく。特に、企業の「中の人」と顧客が1対1、あるいは1対nやn対nでつながり始めたときに、どういう信頼関係を築いていくのかが課題となる。

 いわゆるWeb 2.0サービスは、生まれては消えていき、登場から今まで生き残っているものはひと握りだ。そのなかで、2006年に登場したTwitter、2007年のUstreamが生き残っていて、かつ現在になって注目されている理由のひとつは、前出のUGP(User Generated Protocol)だろう。

 Twitterにせよ、Ustreamにせよ、使い方はユーザーが考える。サービス側が、そのプロトコル(利用の手続き・手順)を厳しく規定することはない。Googleの場合は、ユーザー自らが検索という手段を使って、セルフサービスで情報を取りに行かなければならない。これに対して、Twitterはいわば「回転寿司」であり、いま話題のネタがタイムラインに流れてくるが、仮に取り損なっても、人気のあるネタは再びRT(リツィート)によって自分の前に戻ってくる。いわば「他人をGoogle化して楽をする」仕組みだと神田氏は語る。このような状況にある中で、企業はTwitterが「つぶやき程度のもの」だと捉えていては、変化への適応に出遅れてしまうのだ。

 2010年――間もなく日本でも「iPad」が発売され、メディア革命が始まる。2011年には地上アナログ放送の停波が予定されている。UstreamやTwitterを当たり前のものとして使いこなす世代の台頭と共に、従来のマスメディアとネットメディアとの関係が大転換するのは間違いない。そして、ソーシャルメディア時代には、企業のスタッフは「○○会社のヒト」ではなく、「○○会社の中のヒト」と呼ばれるようになる。これは、企業が“個人化”していくことだ。正しき会社、良き会社は、良きヒトから成る。TwitterやUstreamを企業が活用する際に問われるのは、仕組みではなく、個々の「中のヒト」の人間性となるだろうと語って、神田氏はキーノートを締めくくった。

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