このコラムでも以前一度触れましたが、11月上旬に、脳の研究者である池谷裕二さんにインタビューさせていただきました。インタビューをお願いしたいと思ったきっかけは、『複雑な脳、単純な「私」』(朝日出版社刊)を読んでいて、どうも“コンピュータの匂いがする”と思ったからです。
インタビューの掲載された『別冊アスキー』が、いま書店に並んでいます。すでに「面白かった」とか、「興味深い」とかいう言葉をメールやTwitterでいただいているのですが(ありがたい)、「脳の世界とコンピューターの世界が近づいている」という記事です。
その記事の後半に、池谷さんが「ちょっと言いたいことがあるんですけど」と切り出してくる部分があります。「未来がなぜ予測できないか」というお話なんですが、これが、脳のメカニズムの話と関係してくるというのです。あんまりシロウトが話を突っ込んでいくところではないのですが、1点だけ、「ガーン、やっぱりそうかぁ」という部分がありました。
脳は、はじめは「脳幹」という中央コントロールセンターみたいなところが、全体を支配していました。は虫類や鳥類、両生類などでは脳幹が生命をつかさどっていますし、情動というものもそこで動いています。それが、進化の過程で脳は外側にどんどん増築する感じで大きくなっていきました。ほ乳類では、いちばん外側の大脳皮質が大きくなりました。
ねずみの大脳皮質は、広げても100円玉くらいしかないのに、人間はとても大きくなっています。この、いちばん新しく外側にできた新興住宅地というか埋め立て地みたいなところで、ある事件が起きます。サルと人間の間で、「なぜこんなに違うのか?」というくらいの変化が起きたのです。
「大脳皮質が大きくなりすぎて、数的に脳幹よりも多くなっちゃったんですよ。そのとき、水から一気に氷になるかのような相転移が起きました。今までは脳幹が脳を全部支配下に置いていたのが、自律的に動くようになった大脳皮質が、脳幹を制御する時代になったんです。そして、それが起こってるのは、どうも人間だけらしいのです」(池谷氏)
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単純な脳、複雑な「私」池谷裕二(著)朝日出版社
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