「最悪の場合、外装ごと溶けてしまう可能性も」
黄金化計画、いきなりトラブル発生か!?
向かった先は、東京都葛飾区に本社を構える株式会社ヒキフネ。
ここに問い合わせた理由は、お気軽に~の一文もさることながら、トップページにCPUの画像が貼られていたことが大きい。CPUから生えているあの無数のピンをメッキ加工している会社なら、電源ユニットを持っていっても怒られないだろうという読みである。
今回ご対応いただいたのは営業部管理課の中村剛氏。さっそくこちらの事情を話したところ、メッキ加工自体は可能だが、製品がすでに黒く塗装されていることがネックだという。
【中村氏】 塗装が施されているとキチンとしたメッキ加工ができませんので、まず塗装を落とすことから始めます。塗装の方法や塗料の種類によって落とす方法が異なりますので、“何がどんな方法で塗装されているか?”を見極めることが重要になります。それというのも、塗装を落とす際に使う液体は、たいがいが劇薬に相当する強力なものなので、一歩間違えると外装そのものが変質したり、最悪溶けてしまうこともありえます。
さすがに溶けてしまうことは避けたいので、見極めの時間はじゅうぶんとっていただくことに決定。念のためその場でコルセアの国内代理店であるリンクスインターナショナルにも問い合わせてみたが、未塗装筐体の有無や塗装方法まではわからなかった。電話を切る直前に「今度は何をやらかすつもりですか?」と聞かれ、「あ、スミマセン! 電波が悪いようで……」と返してすかさず電源ボタンを長押し。大人の対応である。
そんなやり取りをしているなか、ふと横を向くと応接室の一角にニコンとオリンパスの一眼レフ、キヤノンのIXY、ソニーのサイバーショットなどが所狭しと飾られている。あの、これはいったい……?
【中村氏】 はい。当社がメッキ加工を手がけた製品です。皆様が日頃から目にするものですと、他にビデオカメラや携帯電話、高級ブランドのバッグのファスナーなどが挙げられます。あと身近なものとしては、携帯電話の充電器に金色の突起、バネが付いてますよね? 実はあれにもメッキ加工が施されてまして、その中には当社で手がけたものもございます。
その後も中村氏の口から飛び出すのは国内大手メーカーの名前ばかり。(今さらながら)あわてて会社の概要と沿革を尋ねたところ、ヒキフネは“ものづくり日本”を象徴する、とてつもない会社だったことが判明。
“内閣総理大臣賞”を受賞した“現代の名工”
『……モノ凄いところに頼んでしまった!』
ヒキフネは電気メッキを専門とし、今年で創業77周年を迎える。従業員数は約120名、そのうち40名ほどがメッキ加工を担当し、新人以外は「めっき技能士」の国家資格を持っている。中村氏によるとメッキは、装飾品としての価値を高める「装飾メッキ」、サビや磨耗などを防ぐために施される「機能メッキ」、そして機能メッキの精密版である「精密メッキ」の3種類に分けられるそうだが、ヒキフネはこのすべてを手がけている。その技術力は日本でも指折りで、欧州の超有名ブランドから名指しで加工依頼が来るというから驚きだ。
その卓越した技術力により、代表取締役会長の石川進造氏は経済産業省が主催する「ものづくり日本大賞」の内閣総理大臣賞を受賞。さらに厚生労働省が表彰する「現代の名工」にも選ばれている。
「現代の名工」と聞くと、職人堅気一辺倒の会社というイメージを持ってしまうかもしれないが、ヒキフネの場合は石川会長をはじめとする現代の名工たちが持つ“技能”を誰でも再現できる“技術”に落とし込み、機能化することに力を入れている。後継者不在が叫ばれる日本の産業界においては注目すべき試みだ。また、本社とは別に研究棟を保持しており、就職シーズンには企業で研究を続けたいと希望する理工系の大学院生が多数訪れるという。実際、特殊用途の光ファイバーへ金メッキを施す独自技術の開発などに成功しており、それについては市場の約8割を握っている。
要するに我々は、日本屈指のメッキ加工会社に対して、何の考えもなく気軽に飛び込みのお願いをしてしまったわけだ。トヨタ本社に乗り込んでタイヤ交換を迫っているのとほとんど変わりない。まったく恥ずかしいにも程がある話だが、逆にメッキ加工については大船に乗ったのも同然と言っても良いだろう。メッキ オブ メッキともいえる企業にお任せできたのだから品質云々の問題はこれで消えた。
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