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オフィシャル系動画配信陣営の反転攻勢となるか?

Yahoo!のGyaO買収は何を意味するのか?

2009年04月14日 06時39分更新

文● 松本 淳

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収益化の鍵(1):広告

 NHKが事業主体となるNHKオンデマンドは広告を収益源とすることが出来ないが、TVと合同での広告販売が好調な第2日テレの例でも分るように、無料で広告と共に配信するのが、やはり他のインターネットビジネス同様、この事業でのメインストリームだと言えるだろう。

 先の表で、マス広告とニッチ広告という分類を行った。マス広告とは例えばトヨタやナショナルといった大口の広告主から出稿される広告であり、ニッチ広告とは、GoogleAdwordsのような中小、個人が購入して配信される広告を指している。

 ニコニコ動画においては、オンラインゲームなど暇つぶし系コンテンツのバナー広告出稿が頻繁に行なわれているが、おそらくいわゆるナショナルクライアントと呼ばれる広告主が継続的に出稿を行なうことはないだろう。

 いくら面白くても、MAD動画のような著作権的にグレーなコンテンツであったり、自社や競合他社についてどう言及・関連づけられるか分らない場所に広告を出すのは、一般には合理的では無いからだ。

 先の角川の例でも、収益の向上はYouTubeにおけるコンテンツ連動型広告の開始が大きく貢献したとされている。巨大なトラフィックに、関連性の高いニッチ広告を積み上げて初めて為し得た広告収益なのである。

 つまり、単純に「YouTubeニコニコ動画などの投稿系の動画サイトが人気だったから、GyaOなどのオフィシャル系のサービスはうまくいかなくなった」と見るのは誤りだと言える。オフィシャル系の動画配信サービスには、投稿系の動画配信サービスが獲得したくてもできないマス広告、ナショナルクライアントの獲得の機会は本来であれば与えられているはずなのだ。

収益化の鍵(2):視聴者数

 では、なぜそのポテンシャルが発揮できなかったのか?

 先ほど紹介したようにGyaOの2月末視聴登録者数は約2200万人。ビデオリサーチの昨年9月発表のデータでは関東地区(全国ではなく関東地区だけである)の4歳以上の個人視聴者数は約4040万人となっており、日本最大の動画配信サービスでも、その半分強しか視聴可能ではなかったというのが客観的な評価となる。

 宇野社長は繰り返し、「テレビと異なりユーザー属性に応じた広告配信が可能」とその広告パフォーマンスを強調してきたが、広告主の媒体選定の際、同じ映像メディアの比較の段階になったときにやや分が悪いのは否めなかった。

収益化の鍵(3):コンテンツ編成

 2007年に一大旋風を巻き起こした初音ミク動画を筆頭に、ニコニコ動画ではユーザー自身が魅力的なコンテンツを生み出すクリエイターにもなる好循環が生まれた。「職人」とも呼ばれるこういったユーザーは、トフラーが「第三の波」で予言したプロシューマーが象られた存在とも言えるだろう。

 面白い動画には、賞賛のコメントやタグが付き、それに刺激されたユーザーはより面白い作品を生み出そうとする。現状、このコンテンツの調達にはプラットフォーム運営者であるドワンゴ・ニワンゴは直接的にはコストを支払ってはいない。

 一方のオフィシャル系の動画サービスを維持するためには、アーカイブの充実と話題性のある新番組を運営者自ら調達する必要がある。NHKオンデマンドが苦労しているように、インターネット配信のためには出演者や権利者の再許諾を得なければならず、そこにも時間とコストがかかる。

 新作制作も含め、この調達コストを、そこに付与される広告の売上により上回ることができれば、このビジネスは成り立つ……つまり、テレビのビジネスモデルと大きくは変わらない。利幅が大きくなれば、有名タレントや優秀なスタッフを起用した人気コンテンツを生み出すための予算も増えていく。投稿型とは異なる好循環が回り始めたはずだ。

 なぜそうならなかったのか、という分析が、今回なぜこの大型買収が実現したのかをそのまま説明することになる。

次ページに続く

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