イマドキのワカモノのサービス感
では、どういったサービスなら若い世代に受け入れられるのだろうか。西嶋氏は自身のモバキッズでの経験を元に次のように語る。
「iPhoneアプリにあるPhoto Shareのように、無料で提供して人を集めて、付加価値を提供していくようなサービスをやってみたいですね。データとコミュニケーションが集まってくる状態がキレイなアプリがいいと思っています。日本ではiPhoneが流行らないといった議論はどうでもいい話です。世界中のたくさんの人たちが使うサービスを作らなければ面白くありません」(西嶋氏)
西嶋氏は世界の壁を取り払って物事を考えなければ、面白い世界へリーチすることは難しいと語っている。一方、六反氏はさらにぶっ飛んだアイディアを披露してくれた。
「先日あるWebプランニングのアワードに『ケータイで流れ星を作る』というアイデアを出したんですが、落選しました(笑)。現在のケータイはGPS情報が取れるので、位置情報を取得してボタンを押す。するとロケットを打ち上げてから自分の頭上で大気圏に突入させて、燃えて地球に落下してくるときに自分専用の流れ星が見られるようになるというものです」(六反氏)
確かに六反氏が目指す「一瞬楽しいものを日常に作り出す」ルールには合っているが、コストも安全性も大いに問題がある。しかし「軍事技術が日常に入ってくるのは別に不思議なことではありません。もともと軍事用だったインターネット技術は、今や『俺は鬱だ』とか好きなことをmixiに書き込む人のために帯域が割かれているのだから」と笑う。
ではどのように彼らに語りかければよいのか? それは意外と難しいことではないのかもしれない。例えば西嶋氏は、「安室ちゃんのケータイ連動広告は面白かった」と紹介してくれた。
これは2008年の1月末から2月にかけて、東京・新宿地下通路に設置されていたP&Gの「ヴィダルサスーン」の広告で、84人の等身大の安室奈美恵が歌詞を口ずさみながら歩いているポスターのことだ。街の中で安室ちゃんと一緒に歩く疑似体験ができ、最後にケータイをタッチするとヴィダルサスーンのCM曲のPVを視聴できる広告だった。
六反氏が指摘する日常の中で体験できる一瞬の出来事であり、風景としての拡張現実から実際の音楽を聴く体験までをうまく結びつけている例と言える。また街の中での経験・体験の共有という点で西嶋氏が指摘するグローバルなサービスの1つの形としても有用なモノであろう。
現実のスピードが速すぎるこのご時世、ケータイ・ネイティブ世代からすると。荒唐無稽に見えるSF映画などへの憧れはないようだ。むしろ実際に今ある技術がいかに日常に入ってくるか、そこに面白いアイディアが隠されているか、という点を現実的に捉えているように見える。
その世界観の中では、リアルとヴァーチャル、アナログとデジタル、国境や言語といった様々な、人間が設定した境界をあまり意識せず、より自由な発想で日常をデザインしようとしている姿が見えてくる。そこから業界の閉塞感をブレイクスルーするものが生まれてくるのではないだろうか。
筆者紹介──松村太郎
ジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性に付いて探求している。近著に「できるポケット+ iPhoto & iMovieで写真と動画を見る・遊ぶ・共有する本 iLife'08対応」(インプレスジャパン刊)。自身のブログはTAROSITE.NET。
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