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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第39回

携帯電話にカメラやテレビはいらない

2008年10月21日 10時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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ガラパゴス化した日本の携帯電話

 こうした特殊な産業構造のおかげで、日本の携帯電話は、世界一デラックスで高価になってしまった。外国人が日本の端末を見ると、カメラやテレビや「おサイフケータイ」が標準装備になっていることに驚く。彼らの使っている端末は、通話以外はショート・メッセージぐらいの機能しかなく、値段も1万円以下だ(もちろん補填なしで)。

 日本の携帯端末メーカーは、リスクなしでもうかる「温室」で20年近く育ってきたため、世界市場の冷たい風にさらされると闘えない。仕様はキャリアの言いなりにどんどん多機能化するので、1端末あたりの開発費は100億円を超える(海外では30億円ぐらいが常識だという)。しかも日本では1端末あたり100万台売れたらヒットだが、世界のベストセラー「Nokia 1100」は累計で2億台を超えた。これでは価格競争にならないのは当たり前だ。

 このようなガラパゴス化を「日本人が多機能端末を好むからだ」と正当化する向きも多いが、最近は価格競争のおかげで、各社が「シンプル携帯」を出すようになった。大型店の売れ筋ランキングを見ると、「らくらくホン」や「簡単ケータイ」がベスト10に入っている。調査会社のアンケートによれば、20代でも40%以上が多機能携帯よりシンプル携帯を選んでいる(関連サイト)。これまで過剰性能の端末しかなかったため、選択肢がなかっただけなのだ。

グローバル市場で闘え

 三菱電機や三洋電機が撤退して、日本の端末メーカーは(ソニー・エリクソンを除いて)8社になったが、それを合計しても世界市場のシェアは10%未満。ノキア1社の1/3にも満たない。急速に成長している中国の市場からもすべて撤退し、アジアの市場も韓国のサムスン電子や中国のフアウェイの圧勝だ。日本メーカーが得意とするマイクロエレクトロニクスでこんなひどい状態になったのは、電電公社以来の通信業界の「鎖国」体質が原因だ。

 かつて日本の自動車や家電はグローバルに生産・販売することで成長したが、コンピュータはNECのPC-9800シリーズなどが国内で競争しているうちに世界標準のIBM-PCに置き去りにされ、今では日本のPCの部品もソフトウェアもほとんどが海外製だ。同じ失敗を繰り返してはならない。

 今度の変化は、一時的には苦しいかもしれないが、端末メーカーがキャリアのくびきを逃れ、世界標準に基づいてグローバル市場で闘う最後のチャンスだ。彼らが何もしなくても、ノキアやモトローラが入ってくるだろう。今後は「非関税障壁」になっているSIMロックも止め、内外の競争を促進すべきだ。それが長い目で見れば日本の産業のためになることは、トヨタやソニーを見れば分かるだろう。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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