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【インタビュー】ITの曲がり角~世界とニッポン

今のままでは生き残れない日本のIT業界

2008年04月17日 21時11分更新

文● アスキービジネス編集部、聞き手●遠藤 諭

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クラウドコンピューティングやSaaSなど、新しいコンピューティングの最前線がWebの世界で進展する一方で、「時代遅れ」と言われて久しいメインフレームなどもまだまだ現役で活躍していると言う。「ITは大きな曲がり角に来ているのではないか? このままで日本のITは大丈夫なのか?」――遠藤諭がガートナー ジャパン バイス プレジデントの亦賀忠明氏に聞いた。世界とニッポンが直面するITの最前線を全4回でお送りする。


自らの位置付けを正確に把握するということ


――前回、テクノロジーが発達した結果、それがもたらす影響が飛躍的に広がっていることを認識しなければいけないということを話しました。それを認識するには、まず何からはじめるべきなんでしょう。

ガートナー ジャパン株式会社 亦賀忠明氏
亦賀忠明氏。ガートナー ジャパン株式会社 リサーチ ITインフラストラクチャ バイスプレジテント。

亦賀:まずは、世界で何が起きているかということを正確に見極めなければいけません。ニュースを見てもいいですし、英語がわかる人なら海外から情報を取るべきです。それにはネットを使ってもいいし、直接現地に行ってもいい。とにかく自分の目で外で何が起きているかを見ないといけません。

――状況をきちんと認識する必要があると。でも、日本人は世界を見てないですよね。

亦賀:見ているとは言いがたいです。状況を正確に認識しなければ、行動も間違いやすい。

――多チャンネル時代になってBBCやCNNを見るようになると、いかに日本のテレビ局が何も伝えてないかがわかりますよね。

亦賀:日本のテレビ報道だけで世界で起こっている事を知った気になっていては極めて危険です。質・量の差こそあれ、それを海外のメディアにまで拡げたとしても同じことです。

 だから、自分の目で見なければいけません。

 まず自分の目で“見”たら、それを認識して、“考える”ことが大事です。考えたら、次は何をするかを“決定する”。決定したことは“実行する”。当たり前のことですが、たった4つのことをできてない人が多い。見てもいない、考えてもいない、決定もしない、実行もしない。これでは最悪です。

――キヤノンとニコンって製造業として、すごく優良企業じゃないですか。製造業は中国にやられてしまうという議論もありますが、この分野は光学系の技術が中心で、海外にはその分野を脅かすような存在はない。海外との厳しい競争にされされていれば、勝つために何をすべきかと言う議論がもっと活発になるんでしょうけど、実際にはキヤノンとニコンの2社で勝ってしまっている。製造業中心で勝っていった国だからこそ、今のある種不幸な状況に陥ってしまってるのかもしれない。

亦賀:自分のセグメントだけでものを見ていると言う意味では、そのとおりですね。

――「まだ、勝てている」ということですね。

亦賀:本来ならもっと視野を広げて、自分のビジネスの位置づけを考えなくてはならない。現在のセグメントでは勝てていても、セグメント自体が崩壊する危険性がないかどうかを、常に問わなければなりません。そういう危機感がなければ、ビジネスが崩壊したときに、次に動くことができない。また、新しい技術で新しい市場を生み出すことも考えていく必要があります。

 特定のセグメントでリーダーになった企業は、やはりその次の手を考える必要がある。リーダーになれたからそれでいい、と思うのではなく、さらなる新しい市場を探していかないと。


いいサービスがでてこないから議論もはじまらない


――ITを武器として使う側、いわゆるユーザー企業がITに対して取るべきアプローチはわかりました。でも、ITを提供する側である、日本のITベンダーやIT業界はどうすればいいんですか?

亦賀:このまま行けば、生き残りは極めて困難だと思います。テクノロジーの優位性もなければ、一貫したビジネス論もない。人件費が高いから、コスト競争では勝てない。これで生き残れるはずがありません。

 真剣に次の行き場を考えて、テクノロジーができる人はテクノロジーを追及し、ビジネスができる人はビジネス論を極めるべきです。特に日本の企業、特に情報システム部門はビジネスを語るカルチャーがありませんから、大変なことですよ。

――日本人は忘れやすいんですかね? ビジネスとITを切り離してはいけないという話は、最近出てきたものではなく、ずっと議論されてることです。

亦賀:忘れると言うのは覚えようとするから忘れるんです。自分の頭で考えて、常にどうやったらよくなるか、ということを考えなければいけない。ある意味で教育の問題ですが、考えて身に着けるのではなく、覚えるから忘れるんです。

――ちょっと話はそれるんですけど、インド人が優秀だから日本人はもうソフトウェア開発では敵わないという議論がありますよね。

亦賀:そういった側面はあると思います。特にアーキテクチャのような観点のものは、彼らのほうが優れています。構造的なものをパッと理解して、形にできるのが彼らなんです。そういった論理的な思考に慣れているのでしょうね。インド人全員がすごいというわけじゃないでしょうけど、そういった思考ができる人の数はインドのほうが多いはずです。

――半導体の設計もインドが中心となって久しい。

亦賀:日本人には直感的にわかりにくい部分なのかもしれません。アーキテクチャとは何か? それを勉強するところからはじめないといけない。たとえば、建物を作るときに、美しいアーキテクチャとは何かということを、ピンと頭に浮かべて、それをパッとロジカルに説明する能力をつけないといけない。アーキテクチャって設計様式ですから、答えは1つじゃないわけですし。

――プログラミングに関していえば、BASICやCOBOLの時代にまず簡易言語が出てきて、次に第4世代言語などといわれて、簡単な方にどんどん向かっていたのに、パラダイムが変わるとすぐに難しくなる。その繰り返しが何年も続いてるわけですが、開発環境が成熟して、パラダイムが変わらない時代が来れば、ソフトウェアの開発はものすごくオートマチックになって、日本人でもできるようになったりしませんか? ちょっとSF的な話ですが。

亦賀:まあ、誰でもできるようになるとお金は取れなくなっちゃいますけど……(笑)。でも、確かにそうなんですね。何をどうやって使うかと、何をどう作るかというのは別個の議論です。ITの専門家はつい、どう作るかという内向きの議論に入ってしまう。でも、経営者やユーザーの視点からすれば、どう作るのかには意味がなくて、できたものにどんな意味があるのか、それをどう使うのかが問われてきます。

 要はサービス指向ということです。話は戻りますが、クラウドの発想も同じです。必要なときに必要なものがあればいい。iPodとかと同じです。あれは必要なときに必要な音楽を提供するツールですから。そういう意味では、中がどのように作られてるかは問題じゃない。

 そういう大きな潮流が来ていることを、日本ではもっと語らなければならないと思います。どうやって作るかではなく、もっといいサービス、もっと使いやすいサービスを。でも残念ながら、今は作る側が追いついていませんね。本当の意味でいいサービスがでてこないから、議論そのものが始まらないんです。

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