「国産新車の平均単価を上回る1軒あたりの家電購入金額」
実は、牛丸副社長の決断は、カナダ地域におけるパナソニックのブランドを高めることにつながっただけでなく、思わぬ成果を生んだ。
それは、社員のモチベーションが上がったことだ。
社員が自分が勤務している会社を「マツシタだ」と友人に語っても「それはなんの会社」と逆に質問される。だが、「パナソニックに勤務している」と話すと、「それはすばらしい」といわれる。
「社員が自信をもって自分の会社名を口にするようになった。勤務している会社に誇りを持つようになった」
社名とブランドの認知が乖離していた結果、起こっていたマイナス効果を、社名変更でプラスに変えて見せたのだ。
大坪文雄社長も、海外におけるパナソニックのブランド力の高さを熟知しているという点で、それは同じだ。
直近の話題から、次のように語る。
「先日、中近東で、当社が知財登録件数が1位だという記事が出ていた。しかし、知財の登録はすべてマツシタ。新聞記事にも当然、マツシタと表記される。これを見て、自分が持っているパナソニックのテレビを作っているメーカーが1位になったと分かった人は、中近東ではほとんどいなかった。松下とパナソニックが結びつかないため、知財で1位という報道がされても、それは『知らない会社』で終わってしまう。これが、今後は、パナソニックと表記されるため、『俺の持っている103インチのプラズマテレビの会社だ』ということが分かる。技術イメージ、先進性のイメージを高めることにも役立つ」。
先行してパナソニックへのブランド一本化が行われていた海外においても、今回の社名一本化がもたらす影響は意外にも大きいのだ。
一方で、牛丸副社長は、国内におけるブランド統一のメリットを次のように語る。
「総務省の統計によると、家庭における大きな買い物は、住宅の次には自動車。国産新車の金額は平均228万円にもなる。しかし、家庭内にあるAVC家電、白物家電、キッチンおよびバスといったパナソニックブランドで提供される商品をあわせると、292万円。なんと、自動車を上回る。これまでは別々のブランドであったことで、同じ会社の商品だとは認識されていなかった。だが、パナソニックとナショナルをあわせると、市場の30%のシェアを持つ。これをパナソニックというひとつのブランドで提供できる意味は大きい」
まさに、「家まるごと」をパナソニックプランドによって提案できるのだ。
パナソニックでは、今回の社名変更にあわせて、パナソニックブランドのお客様への約束として、「ブランドプロミス」を制定した。ここでは、「パナソニックが創るのはくらしを輝かせるアイディアです。世界中の人々に明日のライフスタイルを提案し、地球の未来と社会の発展に貢献しつづけます」ということを掲げた。また、ブランドプロミスを実践する上で社員が心掛けるべき価値を「ブランドバリュー」として、「先進」、「洗練」、「信頼」を掲げた。
「これが、これからのパナソニックが目指す姿。社名変更、ブランドの一本化は、パナソニックのブランド価値を世界トップレベルに引き上げ、真のGlobal Panasonicを実現していくための大きなステップになる」と、牛丸副社長は語る。(つづく)
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