ユーザーを訴えるのは時間がかかる……
── 世間には「ツールは悪ではない」という考え方もあります。ツールを提供するジャストオンラインではなく、不正に動画をアップロードするユーザーを訴えるという方向には行かないのでしょうか?
津田 時間がかかることが問題なんでしょう。著作権を侵害しているユーザーひとりひとりについて情報開示を求めて警告を出し、その上で裁判に持ち込むというのは非常に手間がかかることですし、現実的じゃない。それよりは、サービス自体を訴えたほうが手っ取り早い。
JASRAC側をフォローすると、彼らはファイルローグ裁判以来、今回のような金額の大きな訴訟を起こしていません。加えて同じ動画共有サービスでもニコニコ動画など包括契約が成立している先例があるにも関わらず、ジャストオンラインだけ同じ状態に至っていないというのは、何か彼ら的に提訴に至る背景があったのだと思われます。そのあたりは裁判の過程で明らかになるでしょう。
ただ、JASRAC側も権利侵害を未然に防ぐシステムをサービス側に要求するのは若干行き過ぎな部分はあると思います。
あれだけ公共性が高く、戦後数十年に渡って独占的な地位で集金力と資金力を上げてきた公益法人なのですから、権利侵害に対する防止措置をサービス側に丸投げする以上のことが求められると思います。自らネット上の音声ファイルを監視し、APIのような形でサービス側のデータベースと連動させて権利侵害されたものを自動的に削除するようなシステムを開発して、広く無償で提供するべきではないでしょうか。
和解して「包括契約」を
── 結局、どういった解決が望ましいでしょうか?
津田 今回の件は和解して、ニコニコ動画のようにJASRACとジャストオンラインが包括契約を結ぶのが一番いい結末だと思います。TVブレイクの違法性は、ファイルローグ判決がある以上かなり微妙な状況ですが、そもそもあのファイルローグ裁判や、その判決の元になった「カラオケ法理」※に対する批判も少なくありません。
今後のデジタルネットワーク時代に適応していく意味で、個人的にはJASRACに「大人の対応」で何とか包括契約に持ち込んでもらいたいですね。そのように路線転換していかないと、「JASRACって結局、金かよ」というような悪いイメージが助長されてしまうでしょうし。もっともジャストオンライン側に一切著作権料を払う意思がないのなら、そういう歩み寄りも無理でしょうが……。
※カラオケ法理 カラオケスナックで、カラオケを歌っている客だけでなく、カラオケシステムを客に提供するお店も著作物の利用主体であるとみなす解釈のこと。ファイルローグはこれと同じ法理が使われ、サービスを提供する会社も著作権侵害の主体とされた。
筆者紹介──津田大介
インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。近著に、小寺信良氏との共著 で「CONTENT'S FUTURE」。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ」。
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