Centrino Atomでどんなマシンが登場するのか
それでは、Centrino Atomを採用することで、どのような機器が登場するのだろうか。まず例として挙がるのは、前述のWILLCOM D4だろう。D4はインターネットアクセスを使用法の中心としたMIDだが、Windows Vistaを採用することで、UMPCとしての機能も持っている。
CPUにAtom Z520(1.33GHz)を搭載するため、超低消費電力版のCore 2 Duoプロセッサーを使用したUMPCほどの性能は望めない。一方で、PHSによる通信機能を内蔵しているので、つながればどこからでもインターネットにアクセスでき、パソコンを対象としたウェブサービスを自由に使える。あくまでWindows OSを採用したMIDといえるだろう。
一方で、IDF上海で出展されたMIDでは、「Moblin」(モブリン)というMID用のLinuxをOSとした機種が多く見受けられた。Moblin上で動く各種アプリケーション開発も進められている。米Lenovo社のMIDでは、Moblin上にウェブブラウザーやFlashプレーヤー、PDFリーダーやIP電話ソフトなどを搭載していた。
これらを見ると、Centrino Atomを利用したデバイスは、あらかじめ各種のアプリケーションがインストールされているPDAやデジタル家電的なMIDと、パソコンとしての機能を重視したUMPCに分かれていくのだろう。
しかし、現在のCentorino AtomのCPU性能やハードウェアスペックでは、バリバリつかうモバイルパソコンとしては、いささか性能不足と言える。このあたりは、次世代のAtomである「Moorestown」を待つのか? それとも性能面で妥協してAtom Z5xxを使うのか? 悩ましいところで、メーカーの対応も分かれるかもしれない。
またMoorestownではCPUやチップセットだけでなく、メモリーや無線チップなど、PCアーキテクチャーの主要機能を、クレジットカード大の基板に収める予定である。ここまで小型化されると、携帯電話への応用も見えてくる。
もうひとつのAtom採用機器
NetBook
Atomプロセッサーを採用するパソコン系の製品としては、性能を犠牲にして低コスト化した低価格ノートであるNetBookの路線もある。NetBook向けのAtomプロセッサーであるDiamondvilleは、Centorino Atomに使われるAtom Z5xxシリーズよりも、高いパフォーマンスを持っている(その分、消費電力や熱が高い)。
インテルでは、UMPCとNetBookの境界をしっかり確立したいと考えているようだ。しかし、インテルの思惑通りに市場やユーザーの認識が進むとは限らない。比較的高価で市場も限られるUMPCの認知が進まず、EeePCのような低価格で小型のNetBookが、UMPC的な使われ方をされるようになる可能性も高いだろう。
インテルはMIDを“単なるウェブブラウズ端末”と考えているわけではない。
IDF上海の基調講演では、MIDが内蔵カメラで周りの風景を撮影すると、インターネットにあるデータとリンクして情報を得られるというごく近い将来を想定したデモが行なわれた。例えば、MIDのカメラで上海の人民広場を撮影すると、撮影した風景にオーバーラップして、説明が英語でディスプレーに表示される。レストランのメニューを撮影すれば、動画でメニューの紹介が行なわれたり、リアルタイムの翻訳機になったりする。
このようなMIDを実現するには、現状のAtomのCPUパワーでは、まだまだ足らない(Core 2 Duoでも厳しいだろう)。消費電力をさらに下げながら、今後はパフォーマンス面での強化も求められていくことになる。それに合わせて、高速な無線インターネット接続を利用した、サービス側の発展も求められていくだろう。
Atom入門の後編では、Atomプロセッサーの内部アーキテクチャーやSCHの詳細、将来のロードマップについて取り上げたい。