MIDで新しいジャンルを切り開く
「低消費電力でコンパクトなAtomプロセッサーの登場により、MIDという新しいジャンルのカテゴリーが登場する。MIDはノートパソコンとは違い、情報を見たり、使いこなすためのツールになる」と語るのは、チャンドラシーカー氏。
チャンドラシーカー氏は日本の多機能な携帯電話機を引き合いに、MIDの価値を説明する。「日本では携帯電話機にさまざまな機能が追加されているが、プロセッサーやチップセットは各電話機で異なるため、ソフトの移植に時間がかかり、新しいサービスを構築するのに厖大なコストがかかっている。また、携帯電話のウェブブラウジング機能は、パソコンのウェブブラウザーと異なる動きをして、ウェブページを正しく表示できないことが多々ある」
「しかしAtomプロセッサーを使えば、パソコンと同じインテル アーキテクチャー(IA)を採用しているために、まったく同じソフトウェア環境を実現できる。ソフトウェア開発者や新しいサービスを企画している人たちにとっては、パソコン上で作ったものをMIDでモバイルメディアに広げていくことができるだろう」(チャンドラシーカー氏)
米レノボ社や台湾ベンキュー社などが参考出品していたMIDは、キーボードを持たず、ビューワーとしての機能が中心の機器となっている。チャンドラシーカー氏は、「現状のMIDは第1世代。2009年にはAtomプロセッサーを「Moorestown」へ進化させる。Moorestownではより統合化を行ない、MIDの基板自体をクレジットカードサイズにすることを計画している」と語っている。
NetbookやMIDは日本市場に定着できるか?
2つのモバイルプラットフォームが講演の主題であったが、これらはそれぞれ魅力的なプラットフォームである一方で、日本という市場での評価については、疑問を抱く面もある。
例えば、NettopやNetbookのコンセプトはよく理解できるが、低価格で市場に投入するには、何かと問題も多い。コスト面では製造コストだけでなく、特に日本では流通経路も複雑で、流通コストも重要となる。商品価格が高くなると、NetbookはモバイルノートPCとの違いが打ち出せなくなる。
また、日米のような成熟市場でパーソナルユースに用いられる2~3台目のパソコンとなるには、製品自身に優れたコンセプトやデザインが必要になる。単なるデジタルツールではなく、「Netbookを持つことで個性が表現できるような製品」が必要になるのだろう。
一方発展途上国では、まったく事情が違ってくる。何よりも低価格であることが一番だ。満足に電気が通っていない環境もあるため、ACアダプターだけでなく異なる充電方法も必要になるだろう。また、インターネットに接続する手段も重要だ。インターネットに接続されることで、発展途上国の住民でも、世界とつながっていくことができる。
このように、一口にNettop/Netbookと言っても、国や地域ごとにターゲットは異なってくるのではないか。どっちつかずの製品になってしまうと、成熟市場では中途半端なパソコンとなり、発展途上国には高価なパソコンとなってしまう危険性もある。各マーケットにあった製品開発が必要になるだろう。
もうひとつのMIDだが、非常に面白いコンセプトである一方で、日本のように携帯電話がさまざまなサービスを取り込んでいる環境では、多くの人が買う機器となるだろうかという疑問がある。ソフトウェア開発のしやすさなどを考えると、ウィルコム(株)が開発を表明したデバイスのように、携帯電話会社と連携して携帯電話機のバリエーションとして採用していくことになるかもしれない。機器メーカーにとっては、パソコン用開発ツールやアプリケーションなどが利用できるMIDベースの携帯電話機は、開発コストなどを考えてもメリットがあるだろう。