DRMフリーでもきちんと売れることが証明された
── Sony BMGは、なぜDRMフリー化に踏み切ったのでしょうか?
津田 DRMフリー化しても、楽曲がきちんと売れるという確証が得られたからでしょう。EMIが4月にDRMフリー楽曲の提供を始めた段階では、まだトライアル的な要素が強かった。DRMフリー化が音楽配信の市場にどんな影響を及ぼすか、検証していたとも言えます。
逆にEMI以外の3大メジャーレーベルは、その動向を見守っていたわけです。EMIの楽曲が「実際にどのくらい売れたか」という数値は公表されていませんが、その後、各グループがDRMフリー楽曲の提供を始めたことからも、売り上げには「何かポジティブな成果」があったと推測できます。
ジョブズの描いた未来が現実に
── 不正アップロードの問題はどうでしょうか?
津田 DRMフリーの楽曲は基本的にコピーに対する制限がありません。ダウンロードしたファイルがP2Pなどに流れれば、違法な形でファイルがやりとりされる可能性も出てきます。しかしこれは、音楽CDからリッピングしたデータでも同じことです。そこから流出してしまった場合はどうしようもないですよね。
DRMフリー配信は、アップルだけでなく、Amazon.comやウォルマートなど、さまざまな企業が提供しています。今後欧米においてはインディーズ市場もメジャー市場も、DRMフリーがデファクト(事実上の業界標準)になっていくでしょう。
2007年の2月にアップルCEOのスティーブ・ジョブズ氏が「Thoughs on Music」(音楽に関するいくつかの考察)というコラムを書いてからほぼ1年(関連記事)。
彼の描いた「想像してごらん、すべてのオンラインストアーが、オープンライセンスのフォーマットでエンコードされ、著作権保護なしの状態で売っている世界を」という未来像が、現実のものになったわけです。この未来像を自ら働きかけて実現し、大きな流れを作ってしまったところは「さすがジョブズ」と言わざるを得ませんね。
── iTunes Storeが「一歩リード」というところでしょうか
津田 いや、必ずしもそうとは限りません。4大メジャーでiTunes PlusにDRMフリー楽曲を提供しているのはEMIだけで、ほかはAmazon MP3なり、アップルなり、iTunes Store以外と組んでいる。
これはアップルが提示した条件では折り合いがつかず、他のレーベルが「ほかの手段を利用したほうが取り分が多くなる」と判断したからでしょう。「DRMフリー楽曲が世の中の流れになるなら、こちらはこちらで考えて商売するよ」という感じで、DRMフリーという枠の中で「条件闘争」が行なわれているとも言えます。
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