マドンナやレディオヘッドだけではない
── マドンナやレディオヘッドのような、アーティストの「レーベル離れ」は、音楽業界のひとつの流れなんでしょうかね?
津田 レディオヘッドに続く動きとしては、同じく英国の大物アーティスト「シャーラタンズ」※のニューアルバムが挙げられます。
シャーラタンズは2008年の初頭にニューアルバムを出すのですが、そのアルバムはCDとして販売するのではなく、「無料」でダウンロードさせるようです。彼らは、今後はCDの売上ではなく、ライブやグッズ販売で収入を上げていくことを目指すと言っていて、そのためにアルバムを無料で配布するそうです。
レディオヘッド、シャーラタンズに続き、オアシス、ジャミロクアイ、マッドネスといったほかの大物アーティストたちも、今後ネット配信をベースに据えて活動するのではないかと言われています。
※シャーラタンズ(The Charlatans) 1988年に英国・マンチェスターにて結成された、現在5人組のロックバンド。80年代末から90年代頭に英国の音楽シーンで流行した「マッドチェスター」の担い手として活躍し、6度の来日公演も行なっている。
レコード会社の減収が、アーティスト独立に影響?
── アーティストの「レコード会社離れ」の原因には、やはりインターネットが大きく影響していますか?
津田 これは間違いなくそうでしょうね。従来の音楽ビジネスでは難しかった、アーティストからユーザーへの「直販」が実現できるようになったわけですから。
もっとも、10年くらい前からこうした動きというものはあったわけですが、インターネットやiPodのような携帯プレーヤーの普及率、パソコンに対する人々のリテラシー、少額決済システムなど、さまざまな条件が整備されておらず、実験的な試み以上のことはできなかったんです。
しかし、最近になってようやくそれらの条件がクリアされつつあります。CDの売り上げが落ちたせいで、レコード会社も経済的苦境に立たされている。そのしわ寄せがアーティストに行くなら、アーティスト自らが「独立」を選ぶことも十分にあるでしょう。
── アーティストがレコード会社に求める役割が変わってきたという?
津田 レコード会社に求められる役割は、これまではレコード制作の費用を出す「ファイナンス」と、創った作品をどう世の中に広めていくかという「プロモーション」の2つだったわけです。ところが、経済的事情でどちらも十分にできなくなった今、「MySpace」のような新しいネットメディアで勝手にブレイクするアーティストも出てきている。
ネットがレコード会社の役割をすべて肩代わりするなんてことは僕も思いませんが、確実にかつてレコード会社が担っていた役割は薄くなっていかざるを得ないでしょう。
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