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ホワイトハッカーのおしごと ― 第3回

就職率100%、初任給で大卒を上回る

専門学校はホワイトハッカーへの道に続いているか?

2018年10月04日 11時00分更新

文● 牧野武文 編集●ASCII

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大学と専門学校、有利なのはどちらか

 2020年にはセキュリティ人材が19.3万人も不足するという経済産業省の試算を受けて、各教育機関や公的機関で、セキュリティ人材の養成プログラムの整備が進んでいる。ホワイトハッカーを目指す人には、恵まれた時代になっている。

 選択肢が増えるのはいいことだが、選択肢が多すぎて悩んでしまう人もいるかもしれない。ホワイトハッカーになるための進路は主に4つある。

1)独自に進路を切り開く
2)高等専門学校に進学をする
3)大学の工学部、理学部などに進学する
4)専門学校に進学をする

1)独自に脆弱性を発見し、セキュリティ企業や公的機関に報告することで、ホワイトハッカーとして認知され、さまざまなプロジェクトに呼ばれるようになっていく。しかし、それは一部の天才にしかできないことで、目指してそうなれるかどうかはわからない。

2)高等専門学校(高専)でも、高度セキュリティ教育を始めている。公的な教育機関なので、企業へ就職するだけでなく、大学や大学院との接続も容易だ。しかし、欠点は学校数が少ないこと。現在、全国を5ブロックに分け、1ブロック中の1校または2校がセキュリティ演習校となっている。関東ブロックでいえば、小山高専と木更津高専の2校であるため、居住地によっては通学が難しい。また、中学3年生で進路をホワイトハッカーとはっきりと決めることができる人もそうは多くないだろう。

3)最も一般的なコースだが、大学は広範囲に研究志向の人材を育てる機関であり、セキュリティ人材だけに特化をするのはなかなか難しい。しかも、4年間あっても、2年間は教養学部で語学などの基礎教養を学び、専門教育は2年だけ。セキュリティの基礎知識が身につけられる程度に考えておいた方がいい。実戦的なホワイトハッカーになるには、独学、専門学校、あるいは大学院に進学して、高度な知識やスキルを補う必要がある。

4)一般の専門学校は2年制のところが多いが、最近増えてきているのが4年制の専門学校。卒業すると、大卒と同等の資格である高度専門士の資格も得られる。専門学校といっても、4年制の場合、4年間まるまる専門教育なので、技術職を目指すのであれば、大学よりも濃い教育が受けられることになる。

 セキュリティの分野で、研究志向の進路を考えている場合は、大学から大学院というのが定石だが、企業に入って即戦力として現場で活躍したいという技術職志向であるなら、大学よりもむしろ4年制専門学校の方が適しているかもしれない。

 そこで、神奈川県横浜市にある岩崎学園情報科学専門学校を訪れ、4年制専門学校ではどのような教育が行われているているのか、教務部教務課課長の伊藤泰宏氏、同じく小倉正己氏、同課教員の滋野謙太郎氏のお三方に話を伺った。

教務部教務課、伊藤泰宏課長。カリキュラムの自由度が高く、最先端の事情をすぐにカリキュラムに落とし込み、効果的な学習計画を作れることが専門学校の強みであるという。
教務部教務課、小倉正己課長。学生には外部のコンテストや大会に積極的に参加するよう指導している。優秀な成績をあげると、企業から指名で就職が決まるからだ。
教務部教務課、滋野謙太郎教員。学生の最初のメンターは教員ではあるが、ゼミ活動などを通じて先輩などに移っていく。先輩の背中を見て成長する。それが情報科学専門学校の学生たちの意欲の源泉になっている。

最新動向をすぐにカリキュラムに
実践力を養成できるのが最大の強み

 情報科学専門学校の情報セキュリティ学科には、「ITスペシャリストコース」「サイバースペシャリストコース」の2つのコースがある。前者はさまざまなシステムの設計、開発を行うスペシャリスト、後者はサイバー攻撃からシステムを守る文字通りのホワイトハッカーを養成するコースだ。

 驚くのは、情報セキュリティ学科卒業生の平均初任給は21万601円と、大卒者の平均である20万6100円を上回っているということだ。「技術職の給与が他よりも高めであるということもありますが、専門学校卒と大卒では学歴という点ではもう違いはありません」(小倉)。IT系企業は、2年しか専門教育がされない大学と、4年間みっちり専門教育を行う専門学校の違いをよく理解しており、技術系スペシャリストの分野では、大卒と専門卒で就職の有利不利ということはなくなっているどころか、専門卒を積極的に採用する企業も増えてきている。

「それどころか、セキュリティ関係では専門卒の方が有利だと思います。企業面接で、Linuxが使えます、ネットワークの設定ができますという具体的なアピールができますから。大卒でそこまで具体的なスキルを身につけている学生というのはそうは多くありません」(滋野)。

 特に目まぐるしく技術が進歩するセキュリティの分野では、毎年のように最新技術を取り入れたカリキュラム編成をしていかなければならない。「私たち専門学校は、最先端技術、最先端の状況をすぐにカリキュラムに落とし込むことができ、実践力のある人材を養成することができます。そこが専門学校の最大の強みだと考えています」(伊藤)。

 さらに、カリキュラムをコントロールできることも大きな強みだという。「企業が必要としている人材像から逆算して、効果的なカリキュラムを編成することができます」(伊藤)。学習内容は多岐に渡っているが、いずれも有機的に結びついている。そのため、学習する最適な順序によって、短期間で深い理解が可能になってくる。これも専門学校の強みだという。

 4年間、学生たちは何を学ぶのだろうか。入学した1年生の前半では、知識レベル、スキルレベルを揃えるための座学が中心になる。PCのセッティングからプログラミングの基礎などを教わる。しかし、1年生の11月からは、座学が終わり、「ほとんどすべて実践演習になります」(小倉)と言う。知識を教えるのではなく、実践演習から学び取ってもらう。

同校の授業風景。授業といっても、純粋な講義は1年生の10月まででほとんど終了する。学生にはノートPCが配布され、学習のすべてがこのPC1台でできる環境が整っている。
1年生の11月頃からは、授業のほとんどすべてが実習になる。与えられた課題は学生たちが自力でこなさなければならない。教員は正解を教えるのではなく、ヒントを与え、正解に導くファシリテーターに徹する。

 2年生になると、演習をこなしながら、企業インターンに行く学生が出始める。インターン受入企業は学校側でも積極的に紹介をしていくが、いちばん多いのは学生が自主的に見つけてくるケースだという。情報セキュリティ学科はすでに11回卒業生を出し、企業で出身者が活躍している。その卒業生たちが、学生たちをインターンに誘ってくれるのだ。「そういう先輩からの紹介というケースが多いですね。あるいは勉強会、コンテストなどに積極的に参加して、企業人と名刺交換をし、自分でインターンに応募する学生やネットで自力で見つけてくる学生もいます」(小倉)。

 就職に関しても同様だ。学校側は説明会や交流会、見学会などの案内は積極的に行うが、最終的には学生が自分で就職先を決めてくるケースが圧倒的だという。

 情報科学専門学校では、ゼミ活動(大学の研究室に相当)やサークル活動(自主的な活動)も盛んで、その多くが、コンテストや公開サイバー演習などに積極的に参加をする。こうした活動で、企業人と知り合い、その縁で面接を受け就職するケースも多い。ここの学生たちはみな意欲的なのだ。

情報科学専門学校が重視しているのが、ゼミ活動とサークル活動。このような活動は学年別ではなく、先輩後輩が同じ活動をする。その中で、先輩が後輩にいい影響を与えるという循環が生まれている。

 しかも、学生側も企業を「面接」する。「実際に企業の見学やインターン、面接などに行って、どうもこの会社は自分とは合わないようだと別の企業を探し始める学生もいます」(小倉)。

 セキュリティ人材は売り手市場になっているとは言え、学生の意識は高く、ほとんどの学生が第1志望の企業に就職できているという。

情報科学専門学校で意欲的学生が育つ理由

 どうして、情報科学専門学校の学生たちは、ここまで意欲的なのだろうか。情報科学専門学校は大学と異なり、入学試験では、筆記試験や調査書よりも、ITに対する興味を観ている。入学時点では、知識レベルだけでなく、意欲レベルさえバラツキがあるはずだ。それが4年間の間に、みな意欲的になれるのはなぜなのか。

 情報科学専門学校の母体である岩崎学園には「学びは楽しくなければならない」という考え方があり、情報科学専門学校でもその考え方が実践されている。教員は「知識や技術を伝授する人」ではなく、「意欲を引き出すファシリテーターに徹する」ということが徹底されている。

 例えば、インターンも、行って終わりではなく、発表会、報告会を行う。インターンに行った2年生が1年生に向けて「実際にインターンに行ったら、こんな面白い経験をした」ということを伝えるのだ。ゼミ活動やサークル活動でも上級生と交流し、さまざまな情報を伝えてもらっている。

「先輩の背中を見ているんです。先輩の背中を見て、みな成長していっています」(滋野)。

 中には、学業に対する苦手意識を持つ生徒が、卒業して情報科学専門学校に入ってきて、そこで目覚ましい活動をして、某有名企業に就職を決めた「大逆転組」もいれば、有名大学を中退して情報科学専門学校に入ってきて、コンテストの入賞の常連となり活躍している学生もいる。

もうひとつ重要視しているのが内外コンテストへの参加。学生たちが競い合い、好成績を収めることで自信を持ち、なおかつ企業人と知り合う機会も得られる。写真は学内で1年生の時に行われるプログラムコンテンストの表彰式。民間企業がスポンサーになり、豪華な賞金と賞品が出る本格的なもの。このような内外の「武者修行」により、学生たちは成長していく。

 先輩の背中を見て、優れた仲間と出会い、自分の才能に目覚めていく。このような化学反応は、大学よりも専門学校の方が起こりやすいかもしれない。なぜなら、学生たちは専門学校に入学した時点で、将来の進路をかなり明確に定めているからだ。大学の場合、工学とか理学とか大雑把な選択をし、大学の中で自分の進路を定めたいと考えている人が多い。専門学校生たちは、社会に直結した意識を持っている分だけ意欲的になりやすい。教員、先輩、外部の交流で出会った企業人に刺激を受けて、自分がどう行動すべきかを学んでいく。

 情報科学専門学校での教え方も大学教育とは雰囲気が違う。例えば、カリキュラムの中に情報系の国家資格を取得するプログラムは組み込まれているが、教員は資格取得だけを重要視はしていない。「それよりは、コンテストなどに出場して、好成績を収める方が重要です。ユニークなアイディアを披露した学生には、企業から指名で就職の話がくることもあります。とにかくどんどん外の世界に出て、いろいろな経験を積んでくるように指導しています」(小倉)。

 一人でホワイトハッカーになることはできない。表からも裏からもさまざまな攻撃手法を編み出してくるダークサイドハッカーに対抗するためには、多くの人の知恵を結集して、それを互いに洗練し合うというプロセスが重要だ。孤高のホワイトハッカーというのはフィクションの中だけで、現実のホワイトハッカーはなんらかのチームに属している。

 教員もホワイトハッカーに重要な資質として「やり抜く力と行動力」を挙げる。やり抜くことが苦しい時に仲間に支えられ、どう行動したらいいかわからない時は先輩の背中を見てそれを真似てみる。ホワイトハッカーを志望する人が、そのような仲間や先輩を見つける場所として専門学校という養成機関に入るというのは優れた選択肢のひとつではないだろうか。

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