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スマートアウトドアウォッチ「WSD-F10」開発者インタビュー

「カシオ腕時計らしさ詰めこんだ」スマートウォッチ開発秘話

2016年02月16日 15時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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腕時計を再発明しよう

 それまでの共通点は「スマートフォンを小型化する」という発想だった。しかしそもそもそこに限界があるのではないか。

 「スマホはネットにつなぐWi-Fiルーターのような存在になる。スマートフォンとつながるんだけど、スマートフォンが使いづらい、腕時計として使ったほうが便利なシーンがどこかにあるはずだ。そう発想を切り替えたんです」

 ウェアラブルデバイスとしては「業務用」という発想もある。しかし、そこにはいきたくない。違和感があった。

 「ともすると、人を管理・監視する領域に見える傾向があったんです。そこに違和感があった。腕時計というのはもともとファッションの一部です。ファッションは楽しく、ワクワクするものであるべきだ。そこが頭にあったので、『お客さんにとって楽しい世界で価値を見つける』という軸はブレさせたくないと」

 たどりついたのはアウトドアウォッチ。「G-SHOCK」「PROTREK」という代表製品もある。カシオの腕時計らしさを生かし、腕時計をギアとして使うイメージも持ってもらいやすい。これだと感じ、ふたたび開発をはじめた。

 まずはハードだ。アウトドアで使うならタフでなければならない。5気圧防水、MIL-STD810G準拠の耐環境性能にこだわった。

 「日常生活防水だとスマホの防水仕様とおなじ。腕時計売り場に並ぶと考えたら、やっぱり『何メートル』という仕様になるべきだと思ったんです。5気圧なら水泳もカバーできますし」

 防水の課題はマイクだ。音声認識用のマイクを使いながら、5気圧防水を備えるにはどうしたらいい。詳細は機密ながら、「高い圧力がかかったとき、きちんと内圧で圧を返す仕組み」を社内で開発したことで実装に成功した。

 ハードにはもう1つのこだわりがあった。画面だ。静電容量式タッチパネルに2層液晶を採用した。これには理由があった。

 「スマートウォッチは『腕時計と比べてどうなのよ』とつねに見られつづけていたんです。全部やるのはムリでも、できるところはやりたい。そのために液晶画面を2枚入れることにしたんです」

 通常はカラー液晶、時刻だけならモノクロ液晶。2枚の液晶画面を採用し、必要に応じて表示画面をきりかえることで、使いやすさを追求した。さらにスマートフォンとの通信を切ってAndroid Wearの機能をオフにして時計として駆動させることで消費電力をおさえる「タイムピースモード」も用意した。

 モノクロ表示にもこだわりがあった。光の反射率が非常に高い素材を使い、チラッと見ただけで時間を把握できるようにした。

 「腕時計は100年以上の歴史があるもの。吊り革につかまっているときでも、チラ見で時間がわからなければならないものです。スマートという言葉がついたとき、今までできたことができなくなったら、それは退化ですよ」

 しかし、グーグルのスマートウォッチは当然ながら2層液晶を想定していない。開発の過程でグーグルと交渉する必要が出てきた。プラットフォーマーの理屈を通されたら、また“スマートフォンの再発明”に逆戻りだ。そうはいかない。

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