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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み ― 第3回

進化を続けるテクノロジーの行く末を説いた天才

人間の意識は操っていい? 伊藤計劃「ハーモニー」に見る未来

2015年12月01日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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Photo by Philip Milne

早逝の天才、伊藤計劃

 夭折の天才SF作家・伊藤計劃原作の映画「ハーモニー」を観た。1974年生まれの伊藤氏は、2007年、処女作「虐殺器官」で作家としてデビュー。同作は第7回小松左京賞の最終候補作となっていたが惜しくも受賞を逃した作品である。しかし、大幅な加筆修正を経て刊行された「虐殺器官」は翌年「SFが読みたい!2008年版」1位、月刊プレイボーイミステリー大賞1位などに選出され大絶賛を得る。

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伊藤計劃の最後の長編「ハーモニー」(ハヤカワ文庫JA)。世界中で核戦争が勃発し膨大な数の命が奪われた大災禍後の世界――あらゆる病気が制圧され誰もが健康で長寿を実現できる、やさしさと思いやりにあふれた超医療社会に疑問を抱く3人の少女たちを中心に物語は展開していく

 そして、自身が大ファンだったというゲーム「メタルギアソリッド」のノベライズ作品「METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS」を挟んで、2008年、遺作「ハーモニー」を発表後、伊藤氏は2009年3月に肺がんにより34歳の生涯を閉じた。作家生活、わずかに2年。「ハーモニー」は彼の死後、第40回星雲賞日本長編部門、第30回日本SF大賞、そしてフィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞している。

 映画公開後のネットでの評判を見ていると、伊藤氏の小説の熱狂的な支持者によるコメントだけでなく、原作を読んでいないアニメファンのものも多い。テーマの圧倒的な重さも相まって賛否両論あるようだが、個人的には「ハーモニー」という小説が私たちに突きつけた問題群を、卑俗化したり矮小化したりせず忠実に映像に定着させたと思う。2016年公開の「虐殺器官」のアニメ化もいまから楽しみである。

伊藤計劃作品のアニメ化プロジェクト第2弾として11月13日より公開されている。なかむらたかしとマイケル・アリアスによる共同監督作品。アニメーション制作は「STUDIO4℃」。第1弾は未完の絶筆を円城塔が書き継いだ「屍者の帝国」(10月2日公開)、第3弾はデビュー作「虐殺器官」が2016年公開予定となっている

「ハーモニー」は遠い未来の物語ではない

 本連載は文芸批評でも映画批評でもないので、原作や映画について云々するつもりはない。

 だが、さきにも述べた“「ハーモニー」という小説が私たちに突きつけた問題群”は人間とコンピューター、人間とインターネット、人間とテクノロジーを考える上で、いま、非常にアクチュアルなものだ。旧連載でも何度か取り上げたデジタル社会におけるごくごく近い未来のトピックを多分に包含している。

 具体的にはウェアラブルコンピューターの進化と普及であり、それによって吸い上げられる身体情報の増大と健康管理の徹底であり(その管理を本人がするのか組織がするのかという問題も含む)、人間を含めたあらゆるものがインターネットに接続されたユビキタス社会であり、ナノテクノロジーの発達による遺伝子情報への直接的介入であり、VR技術の実用化であり、脳の機能解明がもたらす人工知能の人間社会への導入などなど……である。

 もちろん小説はフィクションであり映画はアニメーションだから、ところどころに「いわゆる未来」「いかにも未来」といった描写がちりばめられてはいる。しかしながら、先日筆者がレビューを書かせてもらった角川インターネット講座の最終巻「ネットで進化する人間 ビフォア/アフターインターネット」の各所で触れられている通り、上述した諸問題はもうすでに「未来」的観測ではなく「現在」的事象になっているのだ(関連記事)。

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角川インターネット講座全15巻の最終巻「ネットで進化する人間 ビフォア/アフターインターネット」(KADOKAWA)。監修はMITメディアラボ所長、角川アスキー総合研究所の主席研究員でもある伊藤 穰一氏

(次ページでは、「伊藤計劃が作品の中で問題化しようとしたこと」)

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