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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 最終回

「これほど身近な時代はない」ネットと法律はどう関わるのか

2016年07月12日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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 インターネット以降の表現が増え続ける中で、表現の自由と規制の拮抗について考えることが喫緊の課題ではないか。ということで表現の可能性を模索し続ける弁護士の水野 祐氏にインタビューを敢行。

 前回はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの新バージョンについてや、クリエイティブ・コモンズの思想が社会に定着したこと、公共について話を聞いた。

 後編である今回はインターネット時代の法律とクリエイティブ・コモンズの目標について。

法/規範/市場/アーキテクチャ、そして5つ目の規制原理?

高橋 水野さんが「情熱大陸」に出演されたときにも確か番組の冒頭で語られていたと思うんですが、昨年のオリンピック/パラリンピックのエンブレム騒動以降、多くのアーティストやクリエイターは妙なプレッシャーがかかっていると思うんです。

 それは著作権法が強化されたとか適用範囲が拡大されたといかそういうことではなく、“ひょっとすると自分の作品も知らず知らずのうちに誰かの作品をパクってしまっているのかもしれない……”という漠然とした不安と恐怖ですね。

水野 残念ながらいまだにそれは残存していますよね。

高橋 水野さんが法律家を目指すきっかけとなったローレンス・レッシグ教授「CODE」(翔泳社刊)には、インターネット時代の表現の規制原理として法/規範/市場/アーキテクチャの4つが挙げられています。いま表現に携わる人たちを包み込んでいる奇妙な空気は「規範」の範疇に入るものなんでしょうか?

水野 うーん、たしかに「規範」に含まれるという理解もあるでしょう。しかし、あの本に書かれている法/規範/市場/アーキテクチャという4つの規制原理は単純化されていて理解しやすいという側面もあるのですが、現実にはそうきれいに分けられないこともあります。

 法と規範の区別も曖昧と言えば曖昧だし、法もアーキテクチャ的に機能する場面もある。だから、いま高橋さんがおっしゃった奇妙な空気のようなものは、ひょっとするとここ数年で露わになった5つ目の規制原理と言えるのかもしれません。

高橋 なるほど、確かにそのほうがわかりやすいかもしれませんね。法/規範/市場/アーキテクチャという4つの規制原理もそれぞれが画然と分離しているかと言えばそんなこともなくて、相互に混ざり合ったグラデーションの部分がありますよね。

 でも、いずれにしても本来は社会の矛盾を告発したり常識からあえて逸脱することによって日常的な世界を相対化することがアーティストやクリエイターの役割なのに、その気概が萎縮してしまうというのはとても残念というか、怖いことですね。

水野 そう、とても怖いことです。だから僕は「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」以外にも「Arts and Law」というアーティストやクリエイターの支援活動もやっていますが、目的としてはとにかく表現者が変に萎縮せずにいかに伸び伸びと創作できる環境を作るかということなんですよね。

水野氏が代表理事をつとめる、アーティストやクリエイターの表現活動を支援するためのNPO「Arts and Law」。2004年に設立され、ボランティアの専門家相談員による無料相談窓口なども開設されている

高橋 その萎縮の最大の要因というはおそらく“法律を詳しく知らないことによる自己規制”にあると思うんです。“よくわかんないから危なっかしいことはやめておう”という。これを回避するためには、やはり表現者も最低限の法律的知識を持たないといけないというところに帰着するんでしょうか?

水野 それはそれで難しい問題を含むと感じています。というのは、法律を知れば知るほど思考停止になってしまうという危険も生まれてくるんです。なまじっか勉強してしまったばかりに、自分で自分を律してしまうということもあり得るわけですから。

 もちろん法律的なリテラシーがあるに越したことはないですけれども、同時に、法自体が時代とともに変化するものであるという別レイヤーのリテラシーも必要です。「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」のバージョンアップがいい例だと思っていただけるといいですね。

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