『翠星のガルガンティア』村田和也監督インタビュー 後編
レドの相棒チェインバーはスマートフォンだった!?
2013年10月19日 12時00分更新
“乗り物に憧れを抱かない時代”のロボットとは?
かくしてチェインバーはスマートフォンになった
―― 自然とテクノロジーは対立するものではなく、「擦り合わせる」ことができる。「技術をどう使うのか」まで含めて考えることが人類の進化に繋がるということですね。
村田 作品では、テクノロジーと人間との関係性ひとつの形として、人工知能を持ったロボット・チェインバーを出したんです。人語を解して搭乗者へアドバイスするロボットです。
―― チェインバーはなぜ人工知能を持つという設定にされたんですか。
村田 そもそもの企画の出発点が「ロボットものアニメ」だったのですが、「今の時代に人々に望まれるロボットとは何だろう?」ということを、ここに同席しているプロデューサーの平澤さんたちと一緒にすごく考えたんですよ。
平澤直プロデューサー ロボットアニメの歴史というのは、ロボットと人の関係を紐解く歴史として読み替えることができます。
まず(マジンガーZのように)子供が大きな力を手に入れた象徴、“拡張身体”として描写された時代がありました。そして、あるときからその描写は、拡張身体から“乗り物”に変わりました。代表例はガンダムです。ガンダムは首や腕が取れても普通に動きますよね。あれは「ロボットと搭乗者の身体感覚は別(あくまで乗り物)」であることを示しています。
そこからしばらく乗り物の時代が続いたところで、今度は主人公の言うことを聞かず反抗し、じつは“母親”だったことが判明するエヴァンゲリオンが登場……というように、人気を博するロボットアニメには、“主人公とロボットの関係性を再定義している”という共通点があるんです。
同時にその関係性は、時代ともシンクロしています。たとえば、ガンダムが“乗り物・兵器としてのロボット”として人気を博した理由は、当時の視聴者が車・飛行機といった乗り物・科学技術に憧れていたからではないでしょうか。
翻って現在、若者が車を買わなくなったと言われて久しいですよね。ですからいまロボットアニメを作ってきちんとお客さんの関心を得るためには、拡張身体や乗り物・兵器ではなく、新しいロボットと人間の関係性を考える必要があると考えました。
では、視聴者にとっていま一番身近な機械とは何かと考えたときに『間違いなくスマートフォンだ』と思ったんです。
村田 現代における人間とロボットとの良い関係性を考えていたときに、平澤プロデューサーから、1つの案として“ロボット=スマホ説”が出てきました。
若者たちにとっては、世の中にアクセスするための玄関口であり、パートナーであり、自分の補佐役ですよね。だからチェインバーは、補佐役であり、何かを成し遂げる自分にとっての相棒という役割なんです。ロボットがスマートフォンの役割を果たしてくれるというのが、いまのロボットのあり方として一番、ピンとくるのではないかと。
自然と技術は対立しない
人間の知恵で共存させる。それが進化だ
―― チェインバーが人間の相棒として描かれたように、『ガルガンティア』は、テクノロジーと自然物の両方が、どちらにも偏らず並立していました。ハイテクでSF的な世界観でありながら、人間の相棒になるロボットがいたり、船団の人々の土着的な暮らしぶりが描かれたり、船団に降ってくるスコールのような自然物も、細かく丁寧に描写されていました。このような“技術と自然の融合”も本作品で目指された方向性なのでしょうか。
村田 そうですね。人間に与えられている地球の自然というもの、正確に言うと人類自身が地球上に発生した自然の一つですが、その自然と、人間の知恵から生み出される技術や組織、社会。そのすべてが人が生きていく上での幸せにつながっているんだ、自然も技術もシステムも、すべて「人の幸せ」という1つのベクトルに向かって貢献し得るものだ、と捉えたかったんですね。
ですから科学技術を敵視するのではなく、信奉するのでもなく、最終的に人間が自分たちの幸せのために使いこなせるものである、というか、それを使いこなすのが人間の知恵だと思うので、そういう方向に作品を持っていきたかったということです。
自分を取り巻くすべてのものが、人々や自分自身の幸せにつながるものとして利用可能、共存可能であるというような世界にしたい、そういったところに到達できなければ、人間をして知恵のある存在とは言えないだろうと。
チェインバーが最後にレドに伝えた、「生存せよ、探求せよ」というセリフに、つまりはこの作品のメインメッセージが集約されていると、そう思っていただけるといいかなと思います。
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