大谷イビサのIT業界物見遊山 第1回
「売りよし」「買いよし」を目指す日本流マネージドビジネスの新潮流
KDDIもNTTも!IT版御用聞きサービスがもてはやされる理由
2013年04月04日 09時00分更新
「KDDIまとめてオフィス」(KDDI)や「オフィスまるごとサポート」(NTT東日本)といった「中小企業向けのワンストップ型ITサービス」が注目を集めている。ベンダーや通信事業者など、さまざまな立場の思惑がうずまくこうしたサービスが今もてはやされる理由とは?
にわかに熱くなる通信事業者のITサービス
中小企業向けのワンストップ型ITサービスとは、専任管理者のいない中小会社におけるIT導入・運用をトータルで支援するサービスで、IT・オフィス機器やネットワークの導入に加え、省エネ施策の提案やクラウド活用、セキュリティ対策までを幅広く手がける。
代表的なサービスとしては、「KDDIまとめてオフィス」が挙げられる。KDDIまとめてオフィスは、携帯電話の利用で溜まるポイントを法人で活用できるようスタートしたサービスで、当初は通信関連の顧客サポート、商材提案などにとどまっていた。しかし、顧客のニーズを拾ううちにOA機器の導入やオフィスレイアウトなどITの周辺領域までカバーするに至り、2011年にはサービス事業を分社化。KDDIまとめてオフィスとしてスタートして以降、2年前から売り上げ高で6倍、顧客件数を4倍にまで拡大したという。3月には営業体制をより強化し、サービスの全国展開に乗り出す。
対抗馬がNTT東日本の「オフィスまるごとサポート」だ。2010年から展開しているオフィスまるごとサポートでは、名前の通りサポートを前面に打ち出し、パソコン・周辺機器・ネットワーク・内線電話などの修理や設定代行、管理などを行なう。サポートツールを使ったリモートでの資産管理やセキュリティ管理、オペレーターによる遠隔操作支援などフレッツ光のネットワークをフル活用しているのが特徴だ。3月には、日本マイクロソフト、デルと提携し、サービスの強化を発表。PCやネットワーク、OS、アプリケーション、クラウドまでをトータルで導入・運用する体制を提供するという。なお、NTT西日本でも同様の「オフィスネットおまかせサポートサービス」を展開している。
従来も、こうしたサービスがなかったわけではないが、パッケージ化され、中小企業にフォーカスしているという点はやや真新しい。マネージドサービスの一形態に分類されることもあるが、本質は営業マンがユーザー企業に直接足を運び、必要な機器やサービスをまとめて調達したり、サポートする「IT版の御用聞き」だと思う。サービスの走りでもあるKDDIまとめてオフィスで以前、話を聞いたときは、米や酒だけでなく、醤油や味噌などを絶妙なタイミング届けてくれる「サザエさんに出てくる三河屋のサブちゃんを目指す」と説明されていたが、まさに言い得て妙。御用聞き営業の鏡である三河屋のサブちゃんをロールモデルとし、今までにないカバレッジの広さで、既存の中小企業向けSIやマネージドサービスでカバーできなかった規模のユーザー層を開拓しているといえる。
このサービスは通信事業者にとって“勝算が高い”
通信事業者がこうした中小企業向けのワンストップ型ITサービスを手がける背景としては、回線ビジネスが頭打ちになっている点がある。光ファイバーが行き渡れば、回線ビジネスは必ず鈍化する。現にFTTHの成長は鈍化しており、価格競争も激化しつつある。そのため、今後10年で通信事業以外のビジネスを大きく開拓・成長しなければならない。ここらへんは日経コンピュータに掲載されていた「通信業界が中小IT市場に熱視線」(ITproで転載済み)のレポートでも言及されているとおりだと思う。
こう考えている通信事業者にとって、こうした中小企業向けのワンストップ型ITサービスはいろいろな面で都合がよい。回線サービスの鈍化のほか、サービスの自動化やコスト削減により、内部留保している人材を営業マンとして活用できるからだ。営業マンの頭数が揃えば、今までSIerやベンダーが足を運ばなかったような規模のユーザー企業に足を運ぶことができる。逆に言えば、ある程度の営業体制が整わなかったら、このような御用聞きサービスは実現できなかったといえる。KDDIは2000人規模に拡大すると説明しているが、なかなか強力な体制だ。
しかも、こうした足を使った営業において、NTT東日本やKDDIという企業の名前は絶対的なブランドがある。中小企業にとってみれば、ナショナルブランドのメーカーより知名度は高いかもしれない。少なくともベンチャーの飛び込み営業よりは、はるかに成約率は高いはずだ。
そして営業マンがユーザー企業に足しげく通っているうちに、機器やサービスのリクエストを受け、サービスはどんどん拡充される。PCや複合機から、LED照明やオフィスレイアウト、オフィス用品まで手がけ、何でも屋と化していく。もちろんセンスの良い営業は、そのまま“人力CRM化”した三河屋のサブちゃんに成長し、多くの商材を売ってくることになるだろう。
しかも、日本の中小企業の場合、いったんサービスを契約すると、長期化する傾向が強いため、通信事業者は回線契約とからめた“あがりのビジネス”が実現する。ここまでシナリオを描ければ、通信事業者にとって理想的なビジネスになる。
(次ページ、ベンダーとエンドユーザーにもメリットがある)
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