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大谷イビサのIT業界物見遊山 第60回

社名変更にまつわるエトセトラ

LINE WORKS、Chatwork、次はどこ? お兄さんスタートアップの社名変更事情

2024年02月13日 07時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 LINE WORKSに続いて、Chatworkも社名変更。同じビジネスチャットなので、社名変更をからめて両者の戦略をまじめに語るつもりだったが、調べていくうちに社名変更事情の方が面白くなってきた。ということで、両者の事情に加え、創業から10年が経ついわゆる「お兄さんスタートアップ」の社名変更にまつわるエトセトラを調べてみた。

Chatworkからkubellへ 脱サービス名が意味するもの

 先週の2月9日、ビジネスチャットを手がけるChatworkがkubell(クベル)への社名変更を発表した。山本正喜CEOの「Chatwork株式会社は株式会社kubellへと社名変更します」(note)によると、kubellの社名は「薪をくべる」という意味が込められており、「『働く人の心に宿る火に、薪をくべるような存在でありたい』という想いを込めています」という。なお、同社が手がけるChatworkのサービス名はそのままで、社名のみが変更になる。

 知名度の高いChatworkという社名を変更する理由として、山本氏が挙げた理由は「『Chatwork=ビジネスチャット」のイメージが強すぎるから』だという。2019年の上場以降、同社はSaaSの上のビジネスプロセスを中小企業に提供する「中小企業No.1 BPaaS(Business Process as a Service)カンパニー」を標榜しており、チャットをプラットフォームに業務自体をアウトソーシングできる体制を構築するという。

 実際、この数年のChatworkはBPOや他SaaSとの連携を一気に進めている。オンラインアシスタント、助成金診断、アプリフォンなどの自社サービス、買収したスターティアレイズのストレージ、ミナジンの人事評価、勤怠管理のほか、法人登記、先払い、電話代行、補助金申請など他社サービスとの連携も増えている。まさにプラットフォームとして連携を深め、中小企業の利用者にワンストップで提供していく方向性が明確だ。この方向性に関しては、山本CEOの「Chatworkの現在地と、BPaaSという未来」(note)を読むと、より理解が深まる。

 いくらチャットサービスがベースとはいえ、ここまでサービスが多様化してくると、確かに「Chatwork=ビジネスチャット」のイメージは強すぎる。そう考えると、今のタイミングの社名変更は面白いのではないか。薪をくべることで、火力を強くするというイメージも、元ボーイスカウトとしては、しっくりくる。もちろん、そんなにすぐに新社名が浸透するのかとも思うが、考えてもみればHENNGEやSmartHRの前の社名がすでに思い出せないくらいなので、意外と早く浸透してしまうのかもしれない。

「名は体を表す」 次はどこが社名変更?

 一方、2024年1月には同じビジネスチャットを手がけるワークスモバイルジャパンがLINE WORKSに社名変更している(関連記事:ワークスモバイルジャパン、社名をLINE WORKSに変更 2024年1月より)。ただ、こちらはもともとLINE WORKSというサービス名が強すぎたため、社名変更は既定路線と言える。たぶん、「えっ? 社名もLINE WORKSじゃなかったっけ?」というユーザーも多いはず。富士重工業がSUBARUに社名変更したのと同じようなパターンだ。

 LINE WORKSもビジネスチャットを基盤としたプラットフォーム化という方向性は、Chatworkと似ている。その意味で、サービス名を社名にしたLINE WORKSと、サービス名と異なる社名になるChatworkだが、進んでいる方向は似ているのかもしれない。ただ、LINE WORKSは特にM&Aもしていないし、LINE WORKS単品勝負という方針は従来から変わっていない。LINEとの連携という強みを活かし、よりスーパーアプリ化を強化しているというイメージ。その意味でも社名まで変更して、LINE WORKSのブランドを強固に推し進めるのは理にかなっている。

 「名は体を表す」というが、企業もやっていることと社名が合わなくなると、変更されるのがつねだ。Chatworkも創業時はEC Studioだったので、社名変更は2回目になる。LINE WORKSは、もともとサービス名がWORKS MOBILEで、その後LINE WORKSに変更になり、今度は社名にもなったという流れだ。サービス名と社名はあざなえる縄のごとしで、実はけっこう連携している。

 とはいえ、社名は変えるべきときに変えればいいのかもしれない。会計サービスでおなじみfreeeも創業当初の社名はCFOだった(関連記事:仕訳が楽しくなるクラウド型会計ソフト「Freee」って知ってる?)。今はfreeeブランドで多種多様なサービスを展開しているが、「自動化」というコンセプトはどれも共通しているわけで、この社名は実に先見性のあるネーミングだと思う。逆に、マネーフォワードは、個人向けのフィンテックというより、すでにバックオフィスクラウドの会社になっているので、サービスと社名が乖離しつつあるのではないか。

 ユニークなのは弁護士ドットコムだ。消費者と弁護士をつなぐサービスの実績や信頼感が、SaaS事業であるクラウドサインにプラスイメージをもたらしている。ちなみにマネーフォワードは創業から半年間はマネーブックだったし、弁護士ドットコムはオーセンスグループとしてスタートしている。やっぱり社名なんてあとから変えるのだから、スタートアップの社長は社名にあまりこだわらなくてもいいかもしれない(笑)。

 聞かれていないと思うが、このASCII.jpを運営しているアスキー総合研究所のアスキーも、なかなか息の長いブランドである。しかもアスキー・メディアワークスが合併でKADOKAWAとなった際に社名からはいったん消えたが、その後子会社の名前として復活した歴史を持っているわけで、実にしぶとい。ということで、今後ともアスキーをよろしくおねがいいたします(どういうオチだ)。

大谷イビサ

ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。

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